相続人の中に、充分に資産を持っている、恨みがある、遺産の使いみちが不安などの理由で、遺産を残したくない人がいる時にはどうしたらいいのでしょうか?

相続人が、被相続人の意向に同意して相続を放棄すればもちろん可能です。ですが、実際は難しいケースが多いのも事実。また、生前に口約束をしていても、被相続人の死後に実際に相続を放棄してくれるとは限りません。

相続人との関係によっても対策方法がかわりますので、順を追って解説していきます。

相続人が兄弟姉妹の場合には「遺言」で遺産を渡さないことができる

被相続人
遺産を渡したくない相手が被相続人の兄弟姉妹の場合には「遺言」に他の相続人に全て相続させるように書き記せば、兄弟姉妹に遺産が渡ることはありません。
兄弟には「遺留分」を請求する権利がありませんので、「遺言」が全てとなります。「遺留分」については後ほど詳しく解説します。

兄弟姉妹と配偶者が相続人のケースでは必ず「遺言」を

両親(祖父母など直系尊属全員)が他界していて、子どものいない夫婦の場合には、相続人は配偶者と兄弟姉妹になります。

このケースで、「主な遺産が夫婦で住んでいた土地家屋のみ」の場合などに兄弟姉妹に「法定相続分」を請求されると、遺産分割の為に土地家屋を処分せざるおえなくなるかもしれません。配偶者が住み慣れた我が家に住み続けられなくなる事態は避けたいですよね。

生前は兄弟関係が良好で、まさか「法定相続分」の請求をしてきたりしないだろうと思えても、例えそう口約束をしていても、実際に遺産分割をする時になると「もらえるものは貰いたい」と思ってしまうのが人の心理です。
特に被相続人の配偶者と、被相続人の兄弟姉妹とは元々他人ですし、兄弟姉妹の配偶者や子どもが口出しをしてくる可能性もあります。意外と多いケースですので注意しましょう。

しかも、相続人である兄弟姉妹が亡くなった場合には、「代襲相続」で兄弟の子が相続人になります。相続人同士の関係が離れれば離れるほど、遺産分割の話し合いも難しくなってしまいます。

「代襲相続」とは、相続人が死亡、または「相続廃除」や「相続欠落」によって相続できない場合に、その子どもが相続人となることを言います。兄弟の場合には子は「代襲相続」できますが、兄弟の子もまた死亡している場合などに「再代襲相続」で子の子、つまり孫まで相続人になることはできません。(1980年民法改正による)

もしもの時に備え、家や土地などを配偶者など特定の人に全て相続させたい場合には必ず「遺言」を用意しておきましょう。

「遺言」によって渡す遺産を最小限に抑えることは可能

兄弟姉妹以外の法定相続人の場合には「遺留分」を請求する権利があります。
「遺留分」とは、民法で保障されている、相続人が相続できる最低限度の財産をいいます。法定相続人の権利を保証する制度ですね。この「遺留分」は侵害できませんが、それ以外の財産については被相続人が「遺言」で自由に設定できます。

ここで、全体の相続資産に対する「遺留分」の割合について見てみましょう。
法定相続人が誰になるかで割合が変わります。

法定相続人が配偶者のみ 配偶者 1/2
配偶者と子(1人) 配偶者と子1/4ずつ
配偶者と子(2人) 配偶者1/4、子1/8(1/4を子の人数でわける)
配偶者と父母 配偶者1/3、父母1/6
配偶者と兄弟 配偶者1/2、兄弟0
子のみ 子1/2(子が複数いる時には1/2を子の人数で分けます)
父母のみ 父母1/3
兄弟のみ 0(遺留分はありません)

遺産の額にもよりますが、配偶者や子の遺留分は決して少なくないことがわかりますね。それに対して、兄弟に遺留分はありません。

このように、兄弟が法定相続人であっても、「遺言」により遺産を全く渡さないことも可能なのです。また、他の相続人に対しても渡す資産を最小限に抑えることができるのです。

「相続権の排除」は認められにくい、認められても「代襲相続」される

では、財産を渡したくない法定相続人を、相続人から排除することはできないのでしょうか?

虐待をしていた、などの理由で、相続人になることが相応しくない人もいるでしょう。その場合には、家庭裁判所に申し立てをすることで相続人の「遺留分」を含む全ての相続権を剥奪することができます。

ただし、「相続権の排除」というこの制度は、現在ほとんど機能していないと言っていいでしょう。申し立てが認められたケースは僅かしかなく、もしも申し立てが認められて「相続権の排除」ができたとしても、相続人の子への「代襲相続」はされますから、実質的には相続権を奪ったことにならない可能性もあるのです。

「遺贈」や「死因贈与」で他人に相続させても「遺留分」は侵害できない

遺贈
「相続」が法定相続人である家族などに遺産を残すことなのに対して、「遺贈」は相続人以外の人または法人に遺産を残すことをいいます。「遺贈」をするには、遺言書を作成しなければなりません。
生きている間に無償で財産を渡すのは「贈与」になりますので、わけて考えてください。

「死因贈与」は指定した相手に必ず受け取ってほしい遺産がある場合などに行う契約です。双方の合意があれば口約束でも成立します。ですが、他の相続人とのトラブルを防ぐために契約書を作っておくほうがよいでしょう。

「遺贈」と「死因贈与」は法定相続人の「相続」と同じで「遺留分」は侵害できません。「遺留分」を含む財産を「遺贈」や「死因贈与」とした場合には法定相続人に「遺留分減殺請求」をされる恐れがあります。「遺留分減殺請求」とは、相続人が「遺留分」を侵害されて処分された遺産を、遺産を受け取った人または法人から取り戻す為に請求することをいいます。

つまり、「遺贈」と「死因贈与」では、「遺言」による相続と同じく「遺留分」のない兄弟姉妹に財産を一切渡したくないときに有効です。相続人が兄弟姉妹のみの場合で、その兄弟姉妹に遺産を相続させたくない場合には「遺贈」か「死因贈与」を検討しましょう。

また、これも「遺言」による相続と同じで、「遺留分」を渡すことに問題がないのであれば、「遺贈」や「死因贈与」することによって、相続させたくない人に渡る遺産を最小限度に抑えることは可能です。

「相続欠落」は遺産を渡さなくてもよいが「代襲相続」される

最後に「相続欠落」について、説明いたします。

「相続欠落」とは、遺産を手に入れる目的で犯罪行為などを行った場合に、相続権を失うことです。「相続欠落」になるのは、親不孝などの単純な諍いではないことに注意しましょう。

民法で「相続欠落」に該当するかどうかは、5つの要件が明確に定められています。

  1. 被相続人や他の相続人の殺害を図った、殺害をした(正当防衛など除く)
  2. 被相続人が殺害されたことを知っていて黙っていた
  3. 被相続人を脅迫したり騙したりして、遺言の変更や取り消しを妨害した
  4. 被相続人を脅迫したり騙したりして、遺言を作らせたり、変更や取り消しをさせた
  5. 遺言を勝手に破棄、変造したり隠したりした

「相続欠落」については「相続権の排除」のように被相続人が申し立てをする必要はありませんから、この5つのどれかに当てはまる相続人の場合には、遺産を渡さないことができます。ただし、「相続権の排除」と同じく、「代襲相続」されますから、相続人の家族構成によっては実際の効力がないように感じられるかも知れません。

このように、法定相続人に遺産を全く残さないのは難しいですが、相続に被相続人の希望を反映させることは可能です。生前から財産を整理し、遺言を作成して、もしもの時に備えましょう。