遺言書に法的な有効期限は定められていない
相続の配分に大きく影響をもたらす「遺言書」。
複数あった場合は、日付がより新しいものが効力を持ちます。しかし、数十年も前に書かれた遺言書があり、その後に書かれた遺言書がなかった場合、その遺言書は果たして有効なのでしょうか?
答えはYESです。
どれほど昔に書かれたものであっても、それよりも新しい遺言書が作成されていないのであれば有効なのです。そして遺言書の効力が発生するのは、被相続人が死亡したその時からとなります。
遺言書はより新しいものが有効。ただし、古い方の遺言書が有効な場合もある
前述の通り、複数枚の遺言書があった場合、日付の新しいものが有効とされ、古い遺言書は基本的に無効となります。しかし、場合によっては例外もあります。
例えば、新しい日付の遺言書があったとしても、古い遺言の内容を変更や取り消しをしていなかったり、矛盾する内容の記載がない場合には、古い遺言書の内容が引き続き有効となります。
具体例:遺言書が2通、AとBが存在。Aの方が古い日付。
遺言書Aには、「A氏に不動産Aを相続させる」と書かれています。
遺言書Bには、「B氏に不動産Bを相続させる」と書かれています。
この場合、新しい日付の遺言書Bが有効なのは当然なのですが、遺言書Bには、不動産Aの相続については何も書かれていません。ですから不動産Aの相続に関しては、遺言書Aが有効となるのです。
「公正証書遺言」と「自筆遺言」がある場合
専門家が作った「公正証書遺言」と、被相続人が自筆で書いた「自筆遺言」。一見、公正証書遺言の方が正式なものに思えがちですが、自筆遺言の方が後に書かれていた場合は、そちらが有効になります。
ちなみに、公正証書遺言の原本は公証人役場で20年間保管されることになっていますが、実際は遺言した人が105歳になるまで保管されます。場所によっては、120歳まで保管されることもあるようです。
自筆遺言は書き方に間違いがあると無効になりやすい
例えば、数年間介護をしていた母親から、「仕事を辞めてまで介護してくれたのだから、貴方だけに遺産をあげる。他の兄弟にはあげないから。遺言書も書いたからね。」と言われていたとします。
しかし、この「自筆証書遺言(自筆遺言)」は無効になる可能性も少なくないようです。簡単に作れる反面、法律で決められた様式でないと無効になってしまうこともあるのです。
自筆遺言が無効にならないために気をつけること
- 全文を自分で書く。パソコンで作成すると無効になります。
- 日付を必ず自筆で書く。ゴム印などは使わず、自筆で「○年○月○日」とはっきり記載します。「○月末日」や「○月吉日」は無効です。
- 必ず遺言作成者1名が署名すること。夫婦だからといって連盟にしてしまうと無効になります。
- 押印をする。実印でなくても良いのですが、拇印や指印は本人のものだと確認できないケースもあるので避けましょう。
- 書き間違いを修正する場合は、書き直すのがベスト。訂正する方法はありますが、煩雑なため、できれば書き直した方が良いでしょう。修正方法を間違えてしまうと、遺言が無効になってしまう可能性があります。
- 裁判所での検認が済むまでは、封印のある遺言書を絶対に開封してはいけません。遺言が無効になることはありませんが、罰金を科せられます。
相続後、新たな遺言書がでてきた場合、相続のやり直しになるのか?
特に自筆遺言の場合に多いのですが、既に遺産分割などが行われて相続の手続きが終了した後に、ふとしたところから遺言書が出てくることもあるようです。その場合はどうなるのでしょうか?
原則としてはやり直さなければならない
例えば、遺言書が見つからなかったため、法に則った相続を行った後に、だいぶ前に書かれた遺言書が発見されたとします。
この場合、どんなに前に書かれた遺言書であっても、遺言書に有効期限はありませんから、原則としては遺産分割をやり直さなければなりません。
相続人全員の合意があれば、そのままでも問題なし
しかし、もしも相続人の全員が「遺言書に従っての遺産分割を行わない」と合意をすれば、遺言書とは異なる遺産分割をしていても問題はありません。
ただし、あくまでも「相続人全員の合意」が必要ですから、もし1人でも合意に反対する人がいれば、遺言書に従っての遺産分割を行わざるを得なくなります。
では、そのようなケースにおいて、既にその遺産が処分されていたなどの場合はどうなるのでしょう?
遺言書通りに遺産相続ができない場合、本来もらえるはずだった遺産がもらえないといって、相続人同士のトラブルが発生する可能性も否定できません。
そうならないためにも、相続の際には細心の注意をはらって、遺言書の有無や複数枚の存在について調べる必要があるのです。
遺言書の作成は慎重に!困難な場合は専門家へ相談
遺言書には有効期限がないため、作成後も状況が刻々と変化していく可能性が極めて高いと言えます。定期的に遺言を書き直した方が良いのでしょうが、自筆遺言は手順が面倒だったり、公正証書遺言であれば費用もかかります。
そのため、最初に作る段階で、状況に変化があった際にも極力書き直さなくても良いように工夫をすると良いでしょう。
これは実際にあった、とある60代男性のケースです。
まだ両親はご存命でしたが要介護の状態で、ご自身も病気になってしまいました。病状は悪く、親よりも先に自分が死亡してしまうかもしれない、と考えた男性は、現在両親の介護で大変な思いをされている奥様のために期限付きの遺言書を書くことにしたそうです。なぜならば、もしも自分が両親よりも先になくなった場合は、奥様に両親の遺産は相続されないからです。
遺言書に自分の遺産は全て奥様に相続させることを記載した上で、「もしも両親が2人とも死亡した時点で、自分が生きていたら、この遺言書の効力は消滅する」という一文を加えたのです。
有効期限がない故に気を付けた方が良いことは?
例えば、万が一遺言書で財産を遺したい相手が、自分よりも先に亡くなってしまった場合に備える時は、
「自宅の不動産は長女○○に相続させる。ただし、私の死亡以前に長女が既に死亡していた場合には、自宅不動産は長女の長男□□に相続させる」
など第二候補の受取人まで書いておくと良いかもしれません。
預貯金に関しては、金額まで記載することは避け、口座番号までの記載にとどめておく方が良いでしょう。そうすれば、口座の中にあるお金を他口座へ移し替えることで、必要に応じて遺産の配分を変えることも可能です。
このように、遺言書や相続に関しては、法律や複雑な手続きがつきものです。たった1箇所の不備で手続きが中断、などということも少なくありません。円滑に手続きをすすめるためには、専門家に相談してみるのもトラブルを防ぐひとつの方法と言えるでしょう。