相続というと「何かをもらえる」というプラスのイメージが強いかもしれません。
しかし、実は借金があった場合は一緒に相続することになります。

借金を相続すると返済義務が生じる!

借金を相続するということは、「被相続人が残した借金を相続した人間が引き継ぎ、返済を行う義務が発生する」ということです。
相続した時点で債権者は相続人に請求出来るようになるため、自分が作った借金でなくとも返済する必要がでてきます。

また借金の相続は、遺産分割のように背負う金額の割合を任意で変えることが出来ません。

借金の存在を知らなかった場合は「相続放棄」が認められることも

借金の存在を知らないまま遺産を相続してしまい、急に借金の返済を求められることも少なくありません。
特に配偶者が急に亡くなって相続した場合に多く、夫が抱えていた借金が初めて露呈するというケースが見られます。

借金を相続しないためには後述する「相続放棄」が必要ですが、相続放棄の手続は相続開始から3ヶ月以内と決まっています。
悪質な金融機関だとこの3ヶ月という放棄期限を待ってから請求を開始することもあるため、相続放棄期限を過ぎてから借金が発覚することもあり得るのです。

しかし、借金の存在を知らなかったことに正当性が認められた場合は、3ヶ月を過ぎても相続放棄が認められる場合があります。
遺産相続後に発覚した借金がある場合は一度専門家に相談し、裁判所に申述書を提出して下さい。

借金は法律で決まった相続分を引き継ぐことに…その割合は?

借金の存在を知った上で被相続人からすべての財産を引き継ぐと決めた場合、当然ですが借金は相続人のものになります。

しかし、被相続人が抱えていた借金の全額が相続人に引き継がれるわけではなく、法定相続分の割合に応じて返済を行うことになります。
この割合は、任意で変えることは出来ないものです。

借金の相続額は法定相続分によって決まる

法定相続分とは、法律で決められた相続分の割合のことです。
夫・妻・子ども二人の家族で、夫が100万円の借金を抱えた状態で亡くなった場合を例に見てみましょう。

妻の法定相続分は2分の1と定められているため、妻は50万円の借金を背負うことになります。
子どもの法定相続分も2分の1ですが、二人いるためそれぞれが25万円ずつの借金を背負う計算に。

子どもであろうとも借金を相続した場合、債権者には請求する権利が発生します。
被相続人との関係によって法定相続分が変化するため、借金の相続が発生する場合は一度確認すると良いでしょう。

注意!借金の相続は任意の割合で分割出来ない!

例えば、前述したように子どもまで借金を背負うことになってしまった場合、母親が「全部の借金を引き受ける」と主張することがあります。
遺産の分割では話し合いによって割合を変えたり、動産と不動産で分けたりすることが出来るので、借金も同様に出来ると考えている方が非常に多いのです。

しかし、遺産分割とは違って借金は任意で相続する割合を変えることが出来ません。
母親がすべての借金を引き受けると主張し、それが債権者との間でまとまったとしても子どもが相続した借金は消えないのです。

この点が借金の相続において勘違いされやすいところです。自分がすべて支払うつもりで相続をしたのに子どもまで借金まみれになる、という悲劇が発生する可能性があるため注意しましょう。

謝金を相続したら「過払い金」がないか要チェック!

過払い金
テレビCMや新聞広告などで頻繁に目にする「過払い金」(払う必要がない利息)ですが、相続した借金にも発生する可能性が十分にあります。
相続をした時点で借金はあなたのものになるわけですから、当然相続人であるあなたが過払い金の請求を行うことが出来ます。

過払い金の請求により借金が減ったり、ゼロになったりする可能性もあるので是非利用しましょう。

過払い金は金融会社や信販会社に請求!ゼロになる可能性も?

相続した借金の過払い金請求は、通常の過払い金の請求と同様に金融機関や信販会社に対して行うことが出来ます。
正確には「過払い金も相続している相続人」として請求を行うことになりますが、実際の手続きでその点が絡むことはまずありません。

この制度があるため、過払い金を警戒して借金を相続した相手に借金の返済を求めてこなくなる金融会社もあります。
そういった場合の多くは借金がゼロどころか、過払い金によってお金が帰ってくることになるので、自分がどの金融会社の借金を相続したのか確認しておくと良いでしょう。

期限内であれば完済している分の過払い金も請求出来る

前述したように相続人は過払い金も相続しているわけですから、故人がすでに返済し終わっている借金についても過払い金請求が出来ます。

ただし、金融会社や信販会社が残っている場合に限るため、大昔の借金の過払い金請求は出来ないことが多いでしょう。

また、取引終了後(完済後)10年で時効が成立するため、10年以上昔の借金は金融機関が残っていても請求出来ません。

借金は「相続放棄」が可能!しかし慎重な検討が必要

悩む女性

このように被相続人が借金を抱えていた場合、相続人にはそれぞれ決められた割合の借金が引き継がれます。
しかし、借金を相続したくない場合「相続放棄」という正当な手段があります。

相続放棄を行うとすべての相続を放棄することになる

借金の相続を避ける唯一とも言える手段が「相続放棄」です。
被相続人の財産をすべて放棄し、借金も含めて一切相続しないという方法になります。
相続放棄を行うと、被相続人が持っていた財産の相続をすべて放棄することになります。

例えば今あなたが住んでいる家が被相続人のものであった場合、その家を別の人が相続した場合は出ていかなくてはなりません。
他にも被相続人名義の銀行口座や車など、たとえあなたが管理しているものでも相続放棄を行うと所有権がなくなります。

相続放棄は、相続が自分に発生すると知ってから、例外を除いて3ヶ月以内に行う必要があります。
被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に申述書を提出しますが、弁護士や司法書士を通じて手続きが行われることがほとんどです。

「借金だけを相続しない」ということは出来ない

このように、相続放棄とは被相続人の財産相続の権利を一切放棄するというものです。
その為「この家だけは相続したい」「いつも使っている銀行口座の預金だけは貰いたい」などと言うように、一部を残して相続放棄することは出来ません。

借金の相続を放棄したい場合は、残りのプラスとなる遺産もすべて手放すことになります。
今まで当たり前に使っていたものの権利までなくなり、後悔した時には手遅れということになりかねない大きな決断です。
背負う借金の額と得る財産の価値とをよく考え、長い目で見て相続放棄を行ったほうが良いかどうか慎重に考える必要があります。

「限定承認」という特殊な方法もある

被相続人の財産状況が不明瞭で、借金の総額もすぐにはハッキリ分からないこともあるでしょう。
そのような場合は「限定承認」という方法が用いられることがあります。

プラスとなる財産の範囲内で、借金などのマイナス財産を相続する方法です。プラスの財産より借金が多い場合は返済しなくて良いですし、借金を返済してもプラスの財産が残る場合はそれを相続することが出来ます。

しかし、メリットが少なく手続きも複雑になるため、専門家でも勧めることは少ないでしょう。

このように、借金の相続は相続人本人だけでなく、配偶者や子どもにまで影響しかねない一大事です。

しかし借金を抱えるのが嫌だからといって、相続すべてを放棄すると安易に考えてはいけません。
被相続人に借金があると分かった場合、もしくは財産状況が不明瞭な場合は、しっかりと確認してから相続意志の有無を伝えると良いでしょう。