民法85条や86条に於いて、ペットは分類上「物」及び「動産」として扱われ、権利の主体性が認められていません。
例え飼い主がペットに遺産を相続させる旨の「遺言書」を作成して残したとしても、効力は発生せず無効となります。
しかし、間接的であればペットに遺産相続が出来る方法もあります。ペットの相続に関する情報をまとめてみました。
1. 「死後事務委任契約」の締結
飼い主の死後、ペットのお世話を信頼できる人にお願いする(委託する)という方法があります。
いわゆる事務委任契約を書面にて締結することになりますが、この契約書にはペットに関する委任事項(お願い事項)を具体的に書き記す必要があります。
仮に生涯にわたるペットの世話を誰かが快く引き受けたとしても、それが口約束では安心できるものではありません。
この不安感を無くし、より確実に約束が実行されるためにも、ペットに対して世話をしてもらうべき事務内容を具体的に契約書に明記しましょう。
例えば飼い主が他界した後に愛犬を専用の施設に入所させたい場合には、ペットの施設入所に関する条項を設け、入所期間や費用の支払いに関することを明記します。
2. 「負担付遺贈」で相続の代わりにペットの世話を頼む
負担付遺贈とは、例えば「財産を誰かに遺贈する見返りとして生涯にわたりペットの面倒を見てもらいたいと」いう内容を遺言書に記す方法です。
いわゆる条件付きの遺言となるわけですが、その条件も漠然とした内容ではなく、ペットの食事内容や健康管理等、より具体的な指示内容でなくてはいけません。
また遺言書は、全てが法的強制力を持つものではなく、遺言者の一方的な意思表示によるものなので、必ずしも受遺者は負担付遺贈を受け入れる必要はありません。
ペットの面倒を生涯見ていくのが不都合であれば断ることも出来ますので、注意が必要です。
遺贈を円滑に進めるためにも受遺者になってもらいたい方には事前に根回ししておき、予め同意を取り付けておきましょう。
また受遺者が飼い主の死後、残されたペットの面倒をきちんと見てくれるのか不安な場合には「遺言執行者」を指定することで動向を監視することが出来ます。
3. 「負担付死因贈与」でペットの世話を条件に贈与契約を結ぶ
次に負担付死因贈与という方法がありますが、これは負担付(条件付)で死因贈与契約を結ぶものです。
死因贈与については、民法第554条に「贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与」と規定があり、これに贈与者の死後ペットの面倒を見てもらう等の負担付(条件付)で契約を結ぶ方法です。
契約は書面にて締結されるため双方の合意が必要となり、合意に基づく契約では一方的に破棄することは出来ません。
負担付遺贈が遺言書で一方的に行われるのに対し、負担付死因贈与は双方の合意に基づいて行われると言えます。
そういう意味では、合意に基づく契約が締結されているので、負担付遺贈よりは負担付死因贈与の方が確実性は高いと思われます。
とは言え、負担付死因贈与契約を締結したとしても飼い主の死後、受贈者が財産のみ受け取り肝心なペットの世話をしないという事態も起こり得ます。
ここでも執行者を決めて監視してもらった方がいいでしょう。
4. ペット信託の制度を利用する
ペットの将来に備え財産を残す方法として、「ペット信託」の制度を利用するという選択肢があります。
ペット信託とは、飼い主である委託者が信頼できる人(受託者)に一旦ペット用の財産を預け、管理したり処分してもらう制度のことです。
またペットの面倒を実際に見てくれる人(受益者)を予め決めておき、この受益者がきちんと世話をすることによって、受託者からペットの飼育に掛かる費用や報酬をもらう仕組みになっています。
そして受益者や受託者がきちんと役目を果たしているのかを監視するために、「信託監督人」を配置することが出来るのです。
信託監督人として指名を受けた人は、財産がきちんと管理されているのか監視したり、新たに飼い主となる人が支障なくきちんとペットを飼育しているのかを見守る必要があります。
ペット信託を利用するメリットは、
- 飼い主が存命中でもこの制度を利用できる
- 急に亡くなったとしても飼育費が確保されており新しい飼い主も決まっているので、ペットが路頭に迷うこともなく安心して生活ができる
ことです。
「信頼できる人」を事前に探しておくことがとても重要!
ペットの飼い主が先に亡くなり相続が発生した際には、日本の法律ではペットに直接財産を相続させることは出来ません。
しかし、上述したような間接的な方法であればペットのために財産を残すことが可能となります。
また仮に飼い主の死後、ペットの面倒を見てくれる人が見つかり契約を交わしたとしても、契約を守らなかったりペットに支障が出るようなことがあれば意味がありません。
なので、ペットの世話をお願いする人は信頼できる人でないと大変なことになる可能性があります。
ペットが安心して生活できるように、誠実で信頼できる人を事前に探しておきましょう。