かつての日本社会では、将来的な跡継ぎを考えて子供を作り、遺産の継承に努めたものですが、現在は少子高齢化によって相続人が存在しないケースが増えています。ではその場合、故人の遺産はどうなるのでしょうか?

結論から言うと、法定相続人のいない遺産は、債権者への弁済や特別縁故者への遺贈を除けば、最終的に国庫として処理されることになります。ここでは、相続人が存在しない場合の処理の流れを見ていきましょう。

「相続人が存在しない」と確定するにはいくつかの公告が必要

相続に関する一連の手続きの中で、最終的に相続人が存在しないと確定するまでにはいくつかのステップを踏むことになります。

まず、現時点で相続人が存在しない場合、相続財産管理人の選任についての申し立てを家庭裁判所にします。これによって、相続財産管理人を選ぶための公告が開始されますが、同時に相続人捜索も開始されます。この相続人捜索については、一般的にこの公告を含めて3回に分けて行われます。

相続債権者や遺贈受遺者向けの公告

相続財産管理人を選んで、最初の相続人捜索から2か月過ぎても相続人が現れない場合は次の手続きに移ります。

それが、被相続人から見て債権者だった相続債権者と呼ばれる人、さらに遺言が存在する場合には第三者である遺贈受遺者向けへの公告となります。

もちろん、この段階で本来優先される法定相続人の捜索に関しても2回目の公告を行うことになり、上の相続債権者と遺贈受遺者向けの公告と合わせて、さらに2か月以上の期間を設置して該当者を待つことになるのです。

最終的な相続人捜索のための公告

さらに2か月以上過ぎても相続債権者や遺贈受遺者、そして本来の相続人が現れない場合はどのように手続きをすべきでしょうか?
この場合は、3回目の相続人捜索のための公告が、相続財産管理人や検察官の請求に応じて進められます。この公告は事実上最後の公告となり、6か月以上の期間が設定されますが、これを過ぎるといよいよ「相続人が存在しない」という状態が確定されるのです。

被相続人が生前において目立った親戚づきあいもなく、被相続人自身が縁戚の存在さえ認識していなかった場合、この段階でも本来の相続人が現れないケースもあるのです。

相続人が存在しない場合の特別縁故者の定義とその相続手続き

相続人がいない
次に、相続人が存在しないと確定した後の手続きを見ていきましょう。この場合は、一般的に被相続人と生前所縁のあった人物に対する遺産分与が想定されます。いわゆる「特別縁故者」と呼ばれる存在のことです。

特別縁故者となるには条件があり、条件を満たさなければ最終的に特別縁故者として遺産分与を受けることはできません。

遺産の分与を受けられる特別縁故者はどのような人を指す?

特別縁故者とはいったいどのような定義があるのでしょうか?ここではその具体的な内容を見ていきましょう。

特別縁故者としてまず最初に該当するのは、被相続人と同居していて、実質的な夫婦として内縁関係にあった人です。また、養子縁組などで親子関係になっている人も該当します。
次に被相続人の生活上で看護や介護を担ってきた人も「特別縁故者」に該当する場合がありますが、この場合は無報酬で被相続人を世話していたかどうかが重要となります。

また、被相続人とは同居もしていないけれど、何らかの深い縁があった人なども事情によっては特別縁故者に該当することもあるでしょう。

特別縁故者となるには本人が申立てを行い分与審査を受ける必要がある

特別縁故者となるためには、その条件に該当すると思われる人が自身で認定の申立てを進めなければなりません。この申立ては、通常だと最終的に相続人捜索の公告が終了した時から3か月以内に行うことが求められます。

もちろん、すべての人が特別縁故者として認定されるという保証はなく、条件に合っているとは言い難い場合には、家庭裁判所の方から申立ての却下がなされることもあるでしょう。

最終的に特別縁故者も存在しない場合は国庫へ帰属

国庫へ帰属
上記のような手続きを踏んできても、最終的に特別縁故者さえ現れなかったということもあります。少子高齢化が著しく進む日本社会では、このケースが将来的に急増していくことが予想されています。
そうなると、故人の遺産は誰にも相続されないまま宙に浮いてしまいます。そのまま放置されると、管理不全によって近隣周辺の住民などへ様々な悪影響が及ぶことも考えられます。

そのため、行き先不明な遺産はついては、最終的に国庫へと帰属することが想定されています。ただし、現状では相続財産管理人がすべて現金化してから国庫に帰属させることが求められており、評価の難しい不動産などが遺産に含まれていると管理人を悩ませることもあります。

ここでは、その遺産が最終的に国庫となるまでの流れについて述べていきましょう。

相続人捜索の公告の期間が終了して3か月経過すると国庫へ

相続する人のいない遺産は、3回目の相続人捜索の公告期間が終了してから3か月過ぎると自動的に国庫に帰属していきます。

かつては、相続人が最終的に現れなかった場合、いきなり国庫に帰属する流れが存在したこともありましたが、現在は特別縁故者への分与というステップが加えられた形になっているのです。
一度国庫に帰属した財産は、その後に相続人や特別縁故者となり得るものが現れても、一切の権利を要求することはできないので注意が必要でしょう。

相続財産管理人は、遺産を国庫に帰属させたら、家庭裁判所向けの「管理終了報告書」の作成し提出します。この「管理終了報告書」は国で書式が設定されておりますので、それに従って作成して提出することになります。これをもって、すべての流れが終了となります。

相続人が存在しなくても遺言書で受遺者を指定することの意義

現在、相続人がいなくてもスムーズに遺産の処理ができるように、遺言書を活用して被相続人があらかじめ準備する流れを重視する傾向が出てきています。
独居の高齢者は年々増えており、今後はさらに多くなると予想されますので、ここでは遺言書によって受遺者を指定することの意義について考えていきましょう。

被相続人の生前における少しの配慮で問題発生は避けられる

被相続人が所有している財産は、被相続人が生前管理できる状態であっても、急に亡くなってしまえば管理上の問題が発生してきます。それでも、相続人が存在すれば手順に基づいて相続を進めていけばのいいですが、相続人がいない状態だと、なおさら事態は複雑にならざるを得ません。

こうしたことを未然に防ぐためには、被相続人がこの点に配慮し、遺言書を活用して遺産の方向性を決めておきましょう。そうすることで死後に発生するトラブルは少なくなるはずです。

第三者を絡めた公正証書遺言であれば死後迅速に執行される

もしも被相続人が自筆証書遺言を作成していたとしても、一緒に暮らしている人がいないと、場合によってはその遺言書を見つけられない可能性も高くなります。

この場合は、第三者を絡めて遺言書を作成するのがおすすめです。一般的には公証役場の公証人を活用し、公正証書遺言の形式で遺言書を作成すると良いでしょう。
公正証書遺言の場合は、作成時に証人が2名必要となりますが、遺言書の原本が公証役場に保管されることで、遺言書としての確実さと公正さが同時に保たれて死後迅速に執行されるのです。

このように、相続人が存在しない故人の遺産は、段階的に確認作業を行い、最終的に国庫に帰属することになります。ただし、そこに到達するまでにはたくさんの時間と手間がかかります。今後こうしたケースが増えていくことが予想される現在、被相続人が生前に遺言書を残すことはとても有効な手段と言えるのです。