日本の法律では相続すべき遺産について、承認はもちろんのこと、放棄することも認められています。相続人が相続の開始を認識した時から3か月以内に承認か放棄かを決めることが必要です。

この期間のことを一般的に「熟慮期間」と呼んでいます。

熟慮期間に相続を承認するか放棄するかを判断するためには、被相続人がどんな財産を残したのかを知るべきでしょう。その手段が「財産調査」です。

ここでは、「熟慮期間」にまず欠かせない「財産調査」の進め方を中心に話を進めていきます。

熟慮期間における財産調査の意義

相続遺産が多岐に渡る場合、その内容を把握するのは容易ではありません。特に気になるのは、その遺産がプラスなのかマイナスなのかということでしょう。遺産の一部に価値の高いものがあっても、その他の遺産に著しい額の負債があればトータルにて資産額がマイナスに換算されることもあるのです。

例えば、相続すべき遺産の中には現金や預金などの流動性の高いものばかりではなく、各種の不動産も含まれていることが多いでしょう。不動産の中には立地が良くてすぐに売却できるものもあれば、なかなか買い手がつかないものもあります。使い勝手の悪い土地を相続してしまうと、使用用途もないのに税金だけが課せられ生活が苦しくなる可能性もあります。

遺産を受け継ぐことで受ける生活への影響については、今の時代、多くの相続人が神経質になる点だと言えます。

そのため、「財産調査」にて各財産の性質を見極めることは、この点から見ても大きいのです。

相続の承認や放棄の熟慮期間で財産調査が困難になるケース

遺産問題

相続人が被相続人と日常的に離れて暮らしているケース

財産調査が困難になる例としてよく見られるのが、相続人が被相続人と離れて暮らしているケースです。
故郷から近いエリアであればさほど問題はないのですが、少なくない費用をかけて移動しなければならない場合も多く、その物理的距離が財産調査を困難にすることがあります。

この場合は、相続人が何人存在するにせよ、被相続人の生前から連絡を日常的に取ることが相続を滞りなく進められるポイントと言えるでしょう。

遺産の中に評価が困難な資産が含まれているケース

不動産としての遺産の中には、著しく評価が困難なものが含まれているケースもあります。農地や木が不規則に生い茂った土地など、資産価値の高さは別にしてニーズ自体が低い物件が遺産に多いと財産調査も困難を極めるでしょう。

特に地方出身者の相続ケースになると、このようなタイプの遺産は多くなる傾向にあり、将来的にも財産調査を困難にさせる最も深刻なケースとなりそうです。

熟慮期間における財産調査のスムーズな進め方

相続人が複数人であるなら弁護士などの専門家に調査を依頼する

現在、多くの家庭で相続時にトラブルが起きることは珍しくありません。その背景には、相続人が複数人存在することが原因になることもあります。

そもそも、熟慮期間における遺産の承認か放棄かの決定は、各相続人それぞれが進めなければなりません。これを相続人の1人が財産調査もしながら進めると、自身の生活に支障をきたす可能性も出てくるでしょう。

そのため、相続関係の解決に秀でた弁護士などの専門家に依頼することで、各相続人が自身の生活を維持しながらも、財産調査を公平に進めることができるのです。

相続人がいない場合は相続財産管理人を選定してもらう

被相続人の中には相続人が存在しないケースもあり、抱えている遺産が多ければ多いほど死後に管理する者がいないという問題に発展しかねません。

このような事情を被相続人の生前に予見できる場合は、遺言書などを作成して事態に備えることが無難です。

しかし、準備も全く進めずに被相続人が亡くなった場合、その債権者などが相続財産管理人を選定してもらうように家庭裁判所に申し立てることができます。相続財産管理人は遺産の売却なども担当しますので、結果的に熟慮期間における財産調査が早く進みます。

相続の承認や放棄の熟慮期間は延長できる場合もある?

熟慮期間延長
相続の承認や放棄に関わる熟慮期間にて、財産調査が熟慮期間内に終わらないケースもあります。このような際に、その期間内であれば「熟慮期間を伸長」することが可能な場合があります。

ここではどのような場合に伸長できるかチェックしていきます。

塾慮期間の延長申請をする条件

既に述べたように、相続の承認や放棄に関わる熟慮期間は、それぞれの相続人によって熟慮される期間です。つまり、複数の相続人がいる場合でも、熟慮期間の伸長についてはそれぞれが進めなければなりません。

この熟慮期間の伸長を進める条件として、熟慮期間内に財産調査の遅れなどによって遺産すべての把握ができない客観的な理由が求められます。

ただし、伸長の申請に対する審判は家庭裁判所が独自の判断基準をもっているので、必ずしも伸長できるとは限りません。
とはいえ、申請件数からみるとすべてではありませんが90%以上は伸長が認められている状況となっています。

なお、伸長できる期間は通常3か月ですが、場合によっては6か月以内になるころもあるようです。また、伸長後の再伸長も場合によっては認められます。

熟慮期間を延長するための方法

この熟慮期間の伸長の方法になりますが、既定の申立書を記載して家庭裁判所に申請しなければなりません。通常はこの書類に被相続人の戸籍または除籍謄本、そして申立人の戸籍謄本の添付が必要です。
また、被相続人の住民票の除票や戸籍の附票も住所確認のために求められる場合があります。

遺産を相続したことで日常生活に支障をきたすことのないよう、熟慮期間に財産調査をしておくことは大切です。もし期間内に調査が終わらないようであれば、熟慮期間の伸長ができる可能性があることを覚えておきましょう。