相続手続きを委任する際に必要な「委任状」
相続手続きとは、相続登記、すなわち不動産の所有者が亡くなった場合に、被相続人から相続人へ名義変更する手続きのことをいいます。
相続の際には、相続登記の他にも保険や金融機関の手続き、相続税の納付など、必要な手順が多くあります。また、相続人が複数人いる場合はさらに複雑になるケースも多いです。
このようなとき、相続人の中の代表者、あるいは第三者である登記の専門家に手続きを依頼する方法があります。そこで必要となるのが相続登記の委任状です。
ここからは、この相続登記の委任状について詳しく解説します。
本人が相続登記を行う場合委任状は不要
相続登記は必ずしも専門家に頼まなければならないものではありません。基本的なものであれば自分で相続登記をすることも可能ですので、その場合委任状は不要です。
ただし自分で相続登記を行う場合は、自分で役所や法務局などへ行く必要がありますし、その都度手順や方法を聞きながら進めていく為、その分時間や手間はかかるでしょう。
委任状は多くの場合司法書士に出される
相続登記の委任状の多くは、相続人から登記の専門家、つまり司法書士に宛てて出されます。
相続登記の際に委任状が必要になるのは、実際に不動産の権利を承継する相続人のみになりますので、その不動産の相続権利を破棄する相続人に関しては、その相続人の委任状は必要ありません。
複数の相続人で共有名義として登記はするが、実際に登記を行うのは代表者一人、という場合には代表者以外の相続人全員の委任状が必要になります。
また、法定相続分(民法で決められた取り分のこと)通りの相続登記の場合は代表者のみの委任状でもよく、例えば亡くなった所有者の妻とその子供が法定相続分通りの2分の1ずつの土地を相続し、妻が登記を申請する場合であれば、妻のみの委任状を作成すれば問題ありません。
相続登記を専門家に委任するメリットと注意点
前述のとおり相続登記は自分で行うこともできますが、基本的に相続登記は相続の発生から10ヶ月以内に行う必要があり、それなりの知識も必要となるため、専門家以外の人が自分で行うことは容易ではありません。
また、登記されている内容が複雑である場合や、相続人が立て続けに亡くなった場合、不動産が複数ある場合などは手続きも複雑になるため、専門家に依頼した方が賢明と言えます。
なお、相続登記の申請を代理できるのは司法書士や弁護士など法律で定められた人のみで、これ以外の人が報酬をもらって代理で登記の申請を行うことはできません。報酬を受けなければ1回に限り他人から代理で登記の申請を行うことはできますが、反復継続して行った場合は法律違反となりますので、専門家に依頼するほうが安心です。
登記を委任した場合にかかる費用は「実費+報酬(手数料)」
費用は専門家によって違いますが、相続登記を司法書士に委任した場合は「実費+司法書士報酬」がかかります。
相続の事案により必要となる書類の枚数は異なり、市区町村などによって書類の料金も異なりますが、実費の部分の内訳としてはおおよそ次のようなものが考えられます。
必要な書類 | 金額 | 通数 |
---|---|---|
戸籍謄本 | 450円程度 | 1通 |
改正原戸籍・除籍謄本 | 750円程度 | 1通 |
住民票 | 200円〜400円程度 | 1通 |
固定資産税評価証明書 | 350円〜400円程度 | 1通 |
登記事項証明書 | 600円〜700円程度 | 1通 |
印鑑証明書 | 200円〜400円程度 | 1通 |
これに、司法書士に相続登記の委任をした場合は司法書士報酬が別途かかります。司法書士報酬については、以前は報酬規定が定められ、司法書士報酬も大体の見当がつきましたが、現在は報酬規定が廃止され、司法書士の報酬は自由化されていますので、司法書士によって報酬額は違います。
目安としては不動産1つに対しておおよそ3万円〜8万円程度が平均的な額ですが、比較的簡単な事案もあれば複雑な事案もありますので、事案の内容や難易度によって価格を決めている司法書士が多いようです。比較的簡単な相続であれば、実費と司法書士報酬を合わせて10万円前後と考えておいて良いでしょう。
ただし、ここで注意したいのは、司法書士報酬によって手続きの質やスピードに差があるというわけではないことです。あくまでも報酬額は自由設定ですので、司法書士事務所を選ぶ際には、多角的に事務所を見極めることが大事です。初回は無料で相談に応じてくれる事務所もありますから、複数の事務所で見積もってもらうのも良いでしょう。
委任状に記載する内容
ここまで相続登記の委任状と、委任状が必要なケースについて解説してきましたが、ここからは実際の委任状の具体的な内容や書き方などについてご説明します。
委任状には、司法書士など受任者の住所氏名、登記申請の目的やその原因・日付、被相続人の氏名、相続人の住所氏名、相続人の持ち分、登記をする不動産の表示、委任をする日付、委任する範囲などを明記します。
ただし委任状を依頼する相続人が準備する必要はなく、司法書士に依頼する場合は事務所側で用意されている場合がほとんどです。したがって依頼する相続人は記載されている内容に間違いがないかを確認し、署名や押印をするだけとなります。
委任状の書式例
ではここで、実際に相続登記の委任状の書式例をご紹介します。どういった形で記載されているのか参考にしてみてください。
委任状
平成○○年△月□日
○○県△△市□□区○丁目△番地
法律 太郎 (印)
私は、上記の者を代理人と定め、後記の登記申請に関する権限および本件登記申請に係る登記識別情報の受領に関する権限を委任する。
○○県△△市□□区○丁目△番地
見本 次郎 (印)
記
登記の目的 所有権移転
原因 平成○○年△月□日 相続
相続人 (被相続人 見本一郎)
持分2分の1 見本次郎
持分2分の1 見本三郎
不動産の表示
○○県△△市□□区○丁目△番地の土地
以下余白
委任状は自筆・実印である必要はない
委任状に記載する署名については、自筆でなければならないという決まりはありません。したがってワープロ等の記名であっても手続きは可能です。また押印する印鑑についても実印である必要はありません。
基本的に登記においては、実印を押印しなければならないのは所有権を失う人などとされており、登記名義を獲得する、つまり有利な立場に立つ人においては実印である必要はありません。
また、委任状は実際に司法書士事務所で書く必要はなく、郵送でやりとりをすることも可能です。
相続登記や委任状と聞くとなんだか難しくて大変そうなイメージを持ちますが、きちんと理解していればそれほど難しいものではなく、依頼してしまえば容易だと感じた方は多いのではないでしょうか。相続手続きにおいては委任状の内容と言うよりも、委任状をどの専門家に出すかが重要なポイントとなりそうです。