相続税は基本的に金銭で納付するのが原則ですが、納期限までに金銭での納付が難しい場合に適応される「物納制度」とは、どのようなものなのでしょうか。
相続財産である不動産や国債、船舶などでの物納について詳しく解説します。
現物で相続税を支払える「物納制度」
物納制度とは相続した財産の土地、不動産、国債など、金銭ではなく現物で相続税を支払える制度のことです。
原則として、相続税は10か月以内に現金で支払わなければなりません。
しかし、物納制度を利用すれば現金ではなく、相続される国債や不動産などで支払うことができる場合があります。
正当な理由があれば税務署へ申請し、相続財産で支払いができますが、物納できる優先順位が定められているため、この優先順位に準じて物納しなければなりません。
では、現金以外で相続税が支払える正当な理由や優先順位とはどのようなものなのかを見ていきましょう。
物納に必要な5つの条件!
物納をするには、以下5つの条件を満たしている必要があります。
- 金銭一括納付、または延納(金銭で分割で支払う)が困難
- 申請財産が物納できる種の財産である
- 物納財産が定められた優先順位である
- 納期限までに申請書や物納に必要な書類を提出できる
- 物納にする財産が国内にある
相続財産で支払える物納制度の優先順位
第1順位 | 国債、地方債、船舶、不動産、上場株式など(短期社債は除く) |
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第2順位 | 非上場株式(短期社債は除く) |
第3順位 | 動産 |
これらの財産は相続や遺贈で取得した財産に限ります。
優先順位に基づき、物納制度を利用しましょう。
不動産と動産の違いは「土地に定着しているかどうか」
不動産 | 土地、定着物(土地の上にある建物、樹木、大型の移動困難な庭石など) |
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動産 | 土地および定着物以外の商品になるもの(家屋内にあるテレビ、パソコン、美術品) |
物納に不適格な不動産や株式がある
相続される不動産を物納制度に充てる場合、どんな不動産でも良いとは限りません。
正当な財産とは言えない不適格な財産とは以下の通りです。
- 物納に不適格な不動産
- 不動産に担保権が設定されている場合
- 誰の土地なのか争いがある場合
- 境界が不透明
- 不動産の隣接している所有者との間に問題があり、訴訟を起こさないと利用できない場合
- 土地自体が他の土地に囲まれ、当該借地権が誰のものか不透明な場合
- 一つの不動産が一体化されておらず、所有者が複数いる場合
- 耐用年数が経過している場合
- 不動産の敷金が返還されておらず、国が負担しなければならない場合
- 収納価格よりも処分や管理費用が上回る場合
- 公の秩序・善良の風俗が目的だった不動産の場合
- 不動産を引き渡す際に通常行われる行為がされていない場合
物納許可されることがある「物納劣後財産」
物納できる財産があっても価格が適当でない場合は、申請が通れば「物納劣後財産」として物納許可されることがあります。
以下のような不動産は「物納劣後財産」として物納に充てることが可能です。
- 地上権、永小作権、耕地が目的で使用、収益する土地
- 入会権や地役権が定められている土地
- 建物や敷地の規定が法令に違反している
- 土地区画整理事業、土地整理、住宅街区整備事業、土地改良事業など法律が定める施行に係る土地
- 納税するべき人物の住居や事業所の建物や敷地
- 維持や管理に特殊技能が必要
- 道路に2m以上接することが不可能な土地
- 都道府県知事の許可が必要な土地で開発行為をする場合に必要な開発許可の基準に適合しなかった土地
- 保安林の指定された土地
- 建物が建築できない法令規定がある土地
- 過去に事件等があり、不動産取引が困難な不動産または隣接する不動産
- 農用地区域として農業振興地域に定められている
物納に不適格な株式一覧
以下の条件に係る株式は物納に不当とみなされます。
- 金品取引法などの規定が定められている株式に手続きがされていない
- 株式の譲渡に会社の承認が必要である譲渡制限株式
- 質権や担保権に係る株式
- 権利の帰属に争いが生じる株式
- 共有されている株式
- 暴力団員が係る事業が発行した株式
物納の際に必要な書類と手続きの流れ
物納制度に必要な書類は税務署へ
物納申請に必要な以下の書類を、被相続人の住所の管轄する税務署へ提出します。
- 登記事項証明書
- 公図の写し
- 所在図
- 地裁測量図道路明示証
- 境界確認書
- 土地の維持管理に要する費用明細書
- 所有権移転に必要な書類提出する旨の申出書
税務署長による厳格な審査が行われる
物納申請後は、税務署長による厳格な審査が行われます。
調査の内容は以下の通りです。
- 延納による納付が困難であるか
- 物納財産の優先順位が正しいか
- 相続による財産で処分や管理が困難であるのか
これらの厳格な調査の後に許可、もしくは却下されます。
処分に不当な場合は20日以内に物納財産変更申請書を提出し、他の財産へ変更するなどの処置をしなければなりません。
許可された場合は物納財産や税額などの詳しい金額や詳細が記された書類が送付されます。
却下された場合は再申請を行うか、物納以外の納税方法で対応しましょう。
物納制度のメリットやデメリットも知っておこう!
物納制度のメリット
- 不況で不動産の売却が困難な場合に便利
- 物納に譲渡所得税がかからない
物納制度のデメリット
- 相続税評価額が市場よりも不利な場合がある
- 利子税がかかる(物納が許可されるまでの時期)
- 物納申請の手続きに手間がかかる
物納制度は現金がない場合でも相続ができる便利な制度ですが、デメリットもしっかり考慮しておいた方が良いでしょう。
条件によって有利かどうかが変動する「現金」と「物納」
現金と物納制度は、条件によってどちらの支払いが有利なのかが変動します。
売却した際に、相続税評価額が正味手取価額よりも多い場合は「物納が有利」、相続税評価額が正味手取価額よりも少ない場合は「現金納付が有利」です。
正味手取価額とは、税金や値引きなど物納にする商品そのものの価格を示します。
相続税評価額と正味手取価額がどのような条件なのかで有利になる条件が違うことを覚えておきましょう。
相続税を一括で期限内に納付するのは大変なことです。
しかし「現金で一括納付が困難だから」という理由で期限内に納めないと、延滞税が課せられます。
そうならないためにも相続税対策として現金納付が不可能となった場合は、納税対策として「物納制度」を視野に入れましょう。「物納制度」を上手に活用する術を身につけるには、正確な知識を得ることが大切です。
これらの情報を参考にし、ぜひ相続税対策を考えてみてください。