一般的に自分の両親や兄弟など、親族が亡くなった場合、連絡がなくとも自分が相続人であるかどうかは把握できることがほとんどだと思います。
しかし、長年親族と疎遠、あるいは誰かの相続放棄によって自分が相続人となった場合、裁判所や役所などからその連絡はあるのでしょうか。
相続人になっても公的機関からの連絡は来ない
相続人になったからといって役所や裁判所など公的機関から連絡が来るわけではありません。
親族と疎遠になっている人が、自分が相続人であることを知るパターンとしては、
- 亡くなった被相続人に借金などの負債があり、借金をしていた相手(債権者)から「あなたが相続人です。借金を返済してださい」といった書面が届く
- 被相続人が滞納していた税金の納税通知書が届く
といった事例が多くあります。
借金などの相続放棄をするなら3ヶ月以内に
いきなり相続人になった場合、問題なのは借金など「マイナス」の遺産があった場合です。経済的価値がある「プラス」の遺産を上回る「マイナス」の遺産があった場合、相続人には相続放棄をする、という手段もあります。
放棄をする場合、原則的に被相続人が死亡した時点から3ヶ月以内、もしくは自分が相続人であると知った時点から3ヶ月以内に手続きをする必要があります。
また、法的な決まりなどはありませんが、マナーとして相続放棄をする場合は他の相続人や次点の相続人にその旨を伝えておくとよいでしょう。
本当に相続人であるかを確認する3つの方法
ある日、突然「あなたが相続人です」と言われた場合、特にマイナスの遺産を知った場合はその事実をすんなりと受け入れられない方も少なくないでしょう。
そのような時は、次のような方法で自分が本当に相続人であるかを確認することができます。
1. 被相続人の戸籍を取り寄せる
まず、被相続人(亡くなった人)の本籍地の役所で、被相続人の死亡日が記載されている戸籍を取り寄せます。本籍地が不明な場合は、本籍地記載の住民票を取り寄せることで確認することができます。
2. 出生の戸籍まで遡って確認する
1で取り寄せた最後の戸籍を確認し、それより古いものがあれば出生まで遡ってすべての戸籍を取り寄せます。出生から死亡までの戸籍を確認したら、法定相続分で定められた遺産分割の順位から、誰が相続人であるのかを確認します。
3. 家庭裁判所で相続放棄の照会をする
2で自分より相続の優先順位が上である人がいて、なおかつその人がまだ存命の場合は、その人が相続放棄をしていることも考えられます。被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会」を申請し、自分より順位が上である人が相続放棄をしているか確認しましょう。
相続人と連絡が取れない場合の対処方法3つ
被相続人が亡くなり、遺言がない場合は、法律に定められた相続人(法定相続人)が遺産を相続することになります。その際「遺産分割協議」を行い、相続人全員で誰がどのように財産を相続するか話し合います。
この遺産分割協議は、郵送等の書面のやりとりでも可能ですが、相続人全員で行う必要があり、連絡が取れない相続人を除いて遺産分割協議を行った場合は、その協議は無効となります。遺産分割協議の内容を記載した「遺産分割協議書」は、預金口座や不動産の名義変更で必要となるため、連絡が取れない相続人がいると、プラスの遺産があった場合にも相続の手続きができなくなってしまうのです。
そこで、相続人と連絡が取れない時は次のような方法をとります。
1. 戸籍の附表を取り寄せる
連絡が取れない相続人がいる場合、まずはその人の戸籍を探して現住所を確認します。戸籍自体には現住所は書かれていないのですが、戸籍には住所の異動が記録されている「附票」と呼ばれる書類があり、この附票により現住所を確認できる可能性があります。
しかし、場合によっては親の代まで遡って戸籍を調べる必要があったり、居場所をつきとめたことでトラブルに発展する可能性があったりするため、このような作業は弁護士や司法書士など、専門家に依頼する方が確実といえるでしょう。
2. 不在者財産管理人を立てて遺産分割協議をする
連絡が取れない相続人が現住所となる場所に住んでいなかったり、海外に住んでいて現住所が確認できなかったりして、それ以上相続人を探し出すことが困難な場合は、不在者に代わって財産を管理する「不在者財産管理人」を立てて遺産分割協議を進めることになります。
不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可を得て遺産分割協議に加わることが可能となり、
- 不在者が現れるまで
- 不在者の失踪宣告がされるまで
- 不在者が死亡確認されるまで
のいずれかの時点まで財産を管理しなければなりません。
なお、不在者財産管理人の選任、および遺産分割協議参加への許可手続きは、不在者の住所を管轄する家庭裁判所で行います。
3. 失踪宣告をする
不在者財産管理人の選任は、基本的に不在者が生存していることが前提ですが、長年にわたって不在者と連絡が取れなかったり、災害などで行方不明になったりなど、生存の可能性が低いと判断される場合には「失踪宣告」を家庭裁判所に申し立てることができます。
失踪には、行方不明になってから7年間生死が明らかになっていない場合の「普通失踪」と、震災や船舶の沈没などの危難に巻き込まれ、その後1年間生死が明らかになっていない場合の「危難失踪」があり、失踪宣告がされると法律上その人は死亡したとみなされます。
失踪宣告された人が後になって現れて失踪が取り消されたとしても、遺産分割は取り消すことはできませんが、相続された遺産が残っている場合は、その人に財産を返還しなければなりません。
遺産分割協議に参加しないとどうなるか
相続人であるにもかかわらず遺産分割協議に参加しない場合、次のような問題が発生する可能性があります。
相続放棄ができなくなる
前述したとおり、相続放棄は相続人であることを知ってから3ヶ月以内に手続きをする必要があります。相続人であることを伝えたにもかかわらず、何も反応がない場合は、相続放棄できずマイナスの財産を相続することもあるのです。
納税義務が発生する可能性がある
遺産分割協議ができなかった場合でも、税法上では法定相続分で相続をしたとみなされ、相続税の納税義務が発生する可能性があります。
遺産分割調停に発展する可能性がある
遺産分割協議に参加することを拒否し続けた場合、他の相続人から遺産分割調停の申し立てをされる可能性があり、それでも無視をし続けた場合は最終的に審判に移行し、一方的に審判が確定されます。また、遺産分割審判に参加しない場合、5万円以下の過料が科せられる可能性もあります。
早めに専門家へ相談しましょう
自分が相続人であるかどうかについては、相続する遺産のプラスやマイナスにかかわらず、なるべく早く知っておくべきです。
また、相続人であることがわかった時点で相続放棄や遺産分割調停など、速やかに次の行動に移ることが大切です。
相続人になることが予想される人の中に不明者がいたり、何らかの事情で親族と連絡を取ることが困難であったりする場合は、早めに弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。