一度書いてしまった遺言書を取り消したり変更したりすることは、そもそも可能なのでしょうか?

これに関しては、民法の第1022条に示されています。
「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる」

つまり、遺言書の取り消し・変更は可能ということです。

しかし、遺言書の作成自体が民法の規定に沿って行われているものなので、撤回するときも同様に行う必要があります。

遺言書を取り消しまたは変更する方法

もっとも簡単な方法は遺言書を破棄すること

遺言書の内容をすべて取り消したいとき、もっとも簡単な方法が「遺言書の破棄」です。これは、民法第1024条にも記載されています。
「遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については遺言を撤回したものとみなされます。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄した場合も同様」

遺言書の中でも「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」であれば、原本が被相続人の手元にあるわけですから、それを破り捨てる、または燃やして灰にしてしまえばいいのです。
「秘密証書遺言」の場合、念のためコピーが残されていないか確認を取った方がいいでしょう。
ただし、「公正証書遺言」の場合は異なるため、次の項目でご説明します。

新しい遺言書を作成すると前の遺言書は取り消される

民法第1023条に、このような記載があります。

「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす」

つまり、後日別の遺言書を作成すれば、前の遺言書と矛盾している箇所が取り消されることになります。

たとえば、前の遺言書で全財産の譲り手を「Aさん」と記載してあっても、新しい遺言書で「Bさん」と記載すれば、前の遺言書の内容が取り消されます。
ただし、遺言書は日付の新しいものが優先されるため、新しく遺言書を作成する際にはきちんと日付を記しておく必要があります。

また、「公正証書遺言」の場合は、原本が公証人の元にあるため、別途破棄の手続きが必要になり、その際に「遺言書の内容をすべて取り消す」という内容の遺言書を作成しなければなりません。

遺言書にある財産を処分してしまう

被相続人が遺言書を書いた後、遺言書の内容に記載されている財産を処分、または売却してしまった場合、たとえ遺言書がそのまま残っていたとしても、取り消したのと同等とみなされます。

これについては、民法第1023条第2項に記載があります。

「遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合」

ただし、処分されていない財産に関しては、遺言書の内容が適用されるものとなります。

遺言書の内容の一部を書き直す

遺言書の内容をすべて取り消すのではなく、一部だけ変更したいときには、新たに書き直す必要はありません。

遺言書の変更したい部分を線で消し、その横に変更内容を記載すればよいのです。ただし、日付・署名・捺印が必要です。これらのうちいずれかが欠けてしまうと、無効になってしまいます。
遺言書が開封されたときに混乱を招かないよう、「どの部分を、どのように」変更するのかを明確にしておきましょう。

「公正証書遺言」の場合は公証役場にて訂正手続きを行う必要があります。
また、内容のほとんどに修正が入るような場合、後のトラブルを防ぐためにも、新たに作成し直した方が無難といえます。

遺言書の取り消しや変更をする上で注意しておくこと

遺言書の変更

遺言書が無効になってしまうケースがある

遺言書は法的効力を持たせるために残すものですから、正しい方法で作成されていなければ無効になってしまうことがあります。

ワープロで作成された「自筆証書遺言」などがそうです。「自筆証書遺言」の場合は遺言書を自筆で書くことが定められています。ただし、「公正証書遺言」や「秘密証書遺言」においては、ワープロで作成されたものでも効力が認められます。

また、15歳未満が書いた遺言書は法的効力を持たないとされています。

取り消したはずの遺言が有効になる場合がある

「撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が詐欺又は強迫による場合は、この限りでない」

これは民法第1025条に記載されているものになります。

つまり、新しい遺言書が作成された後、その遺言書が詐欺や脅迫などの悪意をもった行為によって作られたということが判明した場合、前の遺言書が有効になるケースもあります。

また、遺言書は日付の新しいものが優先されるというルールを利用し、取り消した遺言書を再び有効にすることもできます。
新しい遺言書を作成した後、新たに遺言書を書き、そこに「新しい遺言書の内容を取り消す」と記せば、日付の古い遺言書の方が適用される仕組みなのです。

心変わりや身内の死去で遺言書を変更するケースが多い

ご臨終

遺言書を残すのは人間ですから、当然、ちょっとした出来事で気持ちが変わることもありますよね。
よくあるケースといえば、以下のものが挙げられます。

  • とある人に財産を譲るつもりで遺言書を書いたが、その後人間関係が決裂したため別の人に財産を譲りたい
  • 妻に財産を譲るつもりだったが、遺言書作成後に死亡してしまった
  • 遺言書を書いた後に子どもが結婚し、その相手が良い人だったのでその人に財産を譲りたい

万が一、遺言書を取り消し、変更できないまま被相続人が死亡してしまうと、既存の遺言書が効力を発揮してしまうことになります。遺言書を取り消したい、変更したいと思ったら迅速に、且つ確実な方法で行動に移す必要があるでしょう。

「遺言書」は3種類存在する!

自分一人で作成できる「自筆証書遺言」

「自筆証書遺言」は、もっとも多くの人に利用されている遺言書です。一般に広く知られているように、紙とペン、封筒、印鑑さえあれば作成することができます。

日付、署名、押印がされている必要がありますが、証人は不要のため、遺言書の内容を第三者に知られることはありません。
遺言書の効力は家庭裁判所の検認手続きを経て発揮されるものとされています。

公証人が必要な「公正証書遺言」

公証人へ遺言の内容を伝え、公証人により遺言書を作成する形となるのが「公正証書遺言」です。
遺言書の原本は公証人が保管することとなるため、誰かに持ち去られたり改ざんされたり、無効になったりする心配はありません。
証人を2名必要とするため、証人に内容を知られることになり、手数料がかかります。

機密性の高い「秘密証書遺言」

最後に、遺言書の内容を知られることなく公証人と証人を立てる「秘密証書遺言」です。
「公正証書遺言」と同じく公証役場で手続きを行いますが、遺言書は自分で作成するため、内容を第三者に公開する必要はありません。
遺言書の開封は家庭裁判所で相続人の立会いのもと行われます。

以上が一度書いた遺言書を取り消し・変更をする方法となります。

どのような形で遺言書を作成しても、基本的には日付の新しいものが適用されます。そのため、遺言書に記す日付は「◯年◯月◯日(できれば時間も)」と、正確である必要があります。

また、せっかく書いた遺言書が無効にならないためにも、署名捺印は絶対に忘れてはなりません。
遺言書の書き方がどうしても分からないという方は、弁護士に相談するという手もありますので、この機会に一度相談してみてはいかがでしょうか。