「相続人同時存在の原則」とは?

財産を相続する権利を継承するためには、相続人となる人が、財産の所有者(被相続人)が亡くなった時に生存している必要があります。これを「相続人同時存在の原則」といいます。

被相続人よりも先に相続人が死亡した場合、相続人には財産を相続する権利が発生しないということです。

では、こういったケースはどうでしょうか?

列車や飛行機などの死亡事故において、被相続人(父親)と相続人(息子)が同時に乗り合わせていたとします。この場合、どちらの死亡が先だったか分からないことが多く、被相続人(父親)と相続人(息子)は同時に死亡したものとみなされます。

つまり、相続人(息子)が被相続人(父親)よりも先、または同時に死亡した場合、相続人に財産を相続する権利は発生しないということになります。

被相続人と相続人の死亡時刻が明確な場合は?

先の例のように、被相続人(父親)と相続人(息子)の事故による死亡が確認された時、もし死亡時刻が明確になっている場合は、どのような扱いになるのでしょうか。

「相続人同時存在の原則」では、両者のわずかな死亡時刻の差も適用されます。すなわち、たとえ1分や2分の違いであったとしても、相続人(息子)が被相続人(父親)よりも後に亡くなっていれば、息子に相続の権利が発生します。

仮に息子に妻と子どもがいたとします。父親の遺産は、一旦息子に相続されます。その後、父親からの相続分と息子自身の遺産が合わさったものが、妻と子どもに相続されることになります。

遺言書がある場合も同様である

遺言書

被相続人が遺言書を残していた場合はどうでしょうか?

例えば、被相続人(父親)の遺言書の中に、相続人(息子)に遺産相続させるという旨が記載されていたとします。この場合は、「相続人同時存在の原則」が適用されないのでしょうか?

実は、遺言書がある場合でも、「相続人同時存在の原則」に変わりはありません。つまり被相続人(父親)の死亡時に相続人(息子)が生存していなければ、遺言書の効力そのものが失われるということです。

「相続人同時存在の原則」における具体的な遺産の計算方法

被相続人(父親)に、もし子どもが二人いた場合、「相続人同時存在の原則」が適用されるか否かで取り分に大きな違いが発生します。

被相続人(父親)には配偶者(母親)がおり、子どもがAとBの二人いたとします。父親の遺産は5000万円です。
父親が死亡した後にAが死亡した場合は、母親が2500万円、Aが1250万円、Bが1250万円に割り振られ、最終的にAの取り分は母親が相続することになります。

しかし、父親が死亡するより前にAが死亡した場合(もしくは同時に死亡したと見なされた場合)は、母親とBとで5000万円を半分に割り、2500万円ずつの取り分となります。

「相続人同時存在の原則」の影響で、Aの取り分が誰に割り振られるかが変わってくるのです。

「相続人同時存在の原則」には例外がある

「相続人同時存在の原則」において、相続人は被相続人が亡くなった時に生存している必要があると述べました。

しかし、これには一つだけ例外があります。
それは、胎児です。

母親のお腹の中にいる胎児は、法律上はまだこの世に存在しているとはみなされません。つまり、本来であれば相続の権利を持たないわけです。

しかし、民法上では胎児もこの世に存在しているものとして認めています。「出生日という日にちのずれは偶然起きるもの、それによって相続が左右されてしまうのは不平等だから」ということから、そのように決められています。

ただし、胎児が死産となった場合には、相続する権利は発生しません。

遺産相続の権利を持つ「法定相続人」とは?

法定相続人

法定相続人とは?

財産を所有している人(被相続人)が亡くなった時、その人の持つ財産を相続する権利があるすべての人を「法定相続人」といいます。
法定相続人の範囲は民法で定められており、まず第一の法定相続人となる人物は被相続人の配偶者です。

この場合、婚姻関係が結ばれていることが前提となるため、同居状態であっても内縁関係である場合は、配偶者とはみなされません。

代襲相続人とは?

前述した通り、「相続人同時存在の原則」において、相続人(息子)が被相続人(父親)よりも先、または同時に死亡した場合、相続人(息子)には遺産を相続する権利が発生しません。
そこで、相続人(息子)に代わって、相続の権利が孫や兄弟姉妹に継承される制度が設けられています。これを「代襲相続」と呼び、相続する人を「代襲相続人」といいます。

この制度については、民法第887条の中に記されています。

  1. 被相続人の子は、相続人となる。
  2. 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は「第891条(相続人の欠格事由)規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
  3. 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

代襲相続を受けられる人物とは?

代襲相続は誰でも受けられるわけではありません。代襲相続人になれるのは、被相続人の孫、もしくは被相続人の兄弟姉妹のみとなります。配偶者や直系尊属には代襲相続が認められていません。

例えば、被相続人(A)に子ども(B)と孫(C)がいたとします。子ども(B)が被相続人(A)より先に亡くなった場合、子ども(B)には相続人となる権利が発生しないため、孫(C)が代襲相続を受けることになります。

なお、被相続人の子どもには、養子や内縁の子どもなども該当します。また、胎児も同じく該当します。

再代襲相続はどこまで認められているの?

代襲相続人となる被相続人の孫までもが亡くなっていた場合、再代襲相続はどこまで認められているのでしょうか?

まず、被相続人の孫の子ども、すなわち「ひ孫」には再代襲相続人となる権利が与えられます。

しかし、被相続人の兄弟姉妹の子ども、すなわち「甥」や「姪」には代襲要件が該当していたとしても、その子どもに再代襲相続人となる権利は与えられません。

相続人が誰もいない場合はどうなるの?

万が一、被相続人に身寄りがなく、「相続人同時存在の原則」の適用どころか相続人が誰もいない場合はどうなるのでしょうか?

この状態を「相続人不存在」といい、このケースの遺産を民法では「相続財産法人」と呼んでいます。その名称通り、遺産に法人格が付けられ、その後国庫に帰属されることとなります。

なお、相続人となる人が全員相続の放棄をしたり、相続の欠格となったりした場合でも、相続人不存在となるケースがあります。

このように、「相続人同時存在の原則」が適用されるか否かで、遺産の取り分や相続する人が変わる可能性があることを覚えておきましょう。