いざ遺言書を書こうとすると、いろいろ気になることが出てくるものです。これまでの人生でお世話になった人もいれば、将来の生活が心配な親族もいます。また、公平性にも気をつかいます。事業の継承も確実に行わなければなりません。その上、遺言書には法律上のルールがたくさんあるのです。

せっかく書いた遺言書が無効になってしまっては、故人の生前の気づかいや思いが無駄になってしまいます。

そうならないためには、なにを注意すれば良いのでしょうか?

遺言書にはどんなことが書けるのか?

まず、遺言書に書いて有効な事柄を確認してみましょう。

相続人の廃除

法定相続人を相続人からはずすことができます。もちろん、正当な理由があるときに限られます。正当な理由とは、遺言者に対する暴力や暴言、ひどい侮辱をした場合などです。

また、遺言者やほかの相続人を死亡させたり、死亡させようとして刑に処せられた人も廃除理由になります。

遺産の配分

遺産を法律とは違う割合で配分することができます。遺言者の介護を一手に担った子供に多く配分するのはよくあることです。また、事業継承の都合で配分が決まることもあります。

相続人以外の人や団体への遺贈

法定相続人以外の人や団体に遺産を配分することができます。生前お世話になった人や慈善団体などに遺贈するのもよくある話です。遺贈に関して条件を付けることもできます。

子どもの認知

婚外子の認知ができます。愛人の子供を遺言で認知して相続権を与えることもできます。

遺言執行者の指定

相続手続きを円滑に進めるために、遺言者が信頼する人を遺言執行者に指定できます。

後見人の指定

相続人が未成年の時には後見人を指定できます。この場合後見人を複数指定することも可能です。

祭祀主催者の指定

葬儀や法事の主催者を指定できます。祭祀者は墓、仏具など祭祀財産を引き継ぎます。祭祀主催者は遺言で指定を受けると拒否できません。祭祀財産には相続税がかかりません。

けれど、祭祀主催者に祭祀を開催する義務はなく、引き継いだ仏具などを売却しても構いません。

特別受益の持ち戻しの免除

遺言者から、生前に結婚資金、住宅資金、事業資金などの贈与をうけた場合、法的には贈与分も相続財産に算入します。しかし、「特別受益持ち戻しの免除」を遺言しておくことで、生前の贈与は計算に入れずに相続させることができます。

相続人相互間の担保責任の指定

相続遺産の一部に瑕疵があって、相続人が弁済しなければならないような場合、その弁済における相続人の間での担保責任を指定できます。

遺留分減殺方法の指定

相続財産が遺留分より少ない場合には、遺産を多く相続した相続人に対して遺留分を請求できます。遺言書ではその請求方法を指定しておくことができます。

その他にできること

生命保険受取人の変更、一般財団法人の設立・財産の拠出、信託の設定など。

無効になる遺言内容

無効になる遺言内容

それでは、遺言に書いても無効になることを確認していきましょう。
一般的に法律を無視した内容は、遺言書の記載であろうと効力をもちません。

遺留分を渡さない

夫婦仲が悪かったり、親子関係が良くない場合でも、一般的には遺留分を相続する権利はあります。「遺留分も渡さないでほしい」と遺言書に書いても、それは法律を否定する内容なので効力はありません。財産を一切渡したくないのであれば、相続人の廃除をすることになります。しかし、相応の理由がなければ廃除できません。

相続人の行動を制限する

「誰々とは仲良くしてほしい」、「取引を再開してほしい」など、相続人の行動を制限することはできません。遺言書に「兄弟仲良くしてほしい」と書くことはできますが、それを相続の条件にしたり、遺産の配分に影響を与えることはできません。

葬儀に関して指示する

葬儀は祭祀主催者の権限です。「葬儀はしないでほしい」、「葬儀は密葬にしてほしい」などを遺言することはできますが、法的な効力はありません。遺族や祭祀主催者が故人の遺志を汲むかどうかは、法律では決められていません。

結婚や離婚を指示する

結婚や離婚は本人同士が決めることです。もし、遺言書がそうした内容のもとでしか実行できないものなら、遺言書そのものが無効になります。

配偶者の死後のことを指示する

相続人の死後にまで言及する遺言も無効です。配偶者が相続する財産に関して、何らかの指定をすることはできません。遺言者の死後、配偶者が相続した遺産をどのように使うかは配偶者自身が決めることです。

様式の不備で遺言書が無効になるケース

パソコンで作成

自筆証書遺言でも公正証書遺言でも、作成内容に不備がある場合、遺言書自体が無効になる可能性があります。

まずは、「自筆証書遺言」で無効になるケースを見てみましょう。

全文をパソコンで作成した自筆遺言書

自筆証書遺言は、すべて遺言者の自筆で書かれる必要があります。そのため、パソコンで作成されたものは無効とされます。一部でも何かの切り抜きを貼り付けたりした遺言書も無効です。

押印がない遺言書

花押や手書きのサインなども無効です。欧米では手書きのサインが効力を持ちますが、日本では印鑑が決め手になります。実印でなくても構いませんが、実印が望ましいとされています。

作成日の日付がない遺言書

遺言書には必ず特定の日付が必要です。「吉日」や「初秋の候」など日付が固定できないものは無効になります。「遺言者の80歳の誕生日」といった記載は日付が固定できるので有効です。ただし、ただ誕生日だけでは日付が確定できないので無効になります。遺言作成日ではない日が記載されている遺言書も無効です。

口述筆記の遺言書

自筆証書遺言は遺言者が自筆で作成する必要があるので、他人による口述筆記は無効になります。遺言者による自筆が不可能な状況の場合は、公証人の立会のもと公正証書遺言を作成することができます。

自書署名のない遺言書

遺言者本人による署名がない遺言書は無効です。なお、旧姓での署名は有効です。

遺言者が2人以上の遺言書

複数名による遺言書は無効です。共有財産にかかわる遺言であっても、遺言者はひとりに決める必要があります。

加筆や訂正の方法が間違っている遺言書

自筆遺言書を書き上げたあとで、気になることが出てきたり、書き忘れに気づいたりすることがあります。その場合は加筆や修正をしても構いませんが、そのやり方には細かい法律的な決まりがあるのです。このルールに沿わない加筆・修正があると、その遺言書は無効になります。

「公正証書遺言」で無効になるケース

公正証書遺言が無効になることはほとんどありません。公正役場で公証人がかかわって作られるのですから法的な不備は考えにくいのです。代表的な例を2つだけ挙げておきます。

  • 公証人が不在の時に作られた遺言書
  • 公証人が受遺者の配偶者や直系の親族であった場合の遺言書

その他に遺言書が無効になるケース

認知症

遺言者の判断能力が低いときに作成された遺言書

例えば、遺言者が認知症である場合、判断能力が低下しているため、自筆証書遺言の作成は困難だと判断されて無効になる可能性があります。
公正証書遺言であれば無効になることは少ないですが、遺言者の病状を利用して作成したものと判断された場合、その遺言は無効になります。

遺言者をだましたり脅迫したりして書かせた遺言書

遺言者を故意にだましたり、脅迫によって特定の相続人に有利な内容を書かせた場合、その遺言書は無効です。

相続の内容があいまいな遺言書

自筆証書遺言にありがちなのですが、「兄弟仲良く公平に分けてください」などの内容に具体性のない遺言書は無効になります。

遺言者が満15歳になっていない時に書かれた遺言書

遺言の残すには、遺言者が満15歳以上であることが条件です。15歳未満の場合、判断能力がまだ未熟であると判断され、遺言自体が無効となります。

録音した音声による遺言書

日本の法律では、遺言書は書類であることが条件になります。目の不自由な人が遺言書を残す場合、現状では公正証書遺言や秘密証書遺言など、法律の専門家の手を借りて遺言することになります。
公正証書遺言であれば、完全に口授で作成可能です。秘密証書遺言なら点字やパソコンで書いた遺言書を封筒に入れて公証人に署名押印してもらいます。

動画やビデオなどの遺言書

動画やビデオは一見本人に間違いないように思えますが、日本の法律では認められていません。体の不自由な方が遺言書を作成する場合には、公正証書遺言などを利用することになります。

このように、せっかく遺言書を書いても、書き方や内容によっては無効とされる場合があることを覚えておきましょう。