引用元:伊藤元重研究室

東大教授伊藤元重氏によって提唱され、ユニークなネーミングと内容で注目を集めている「死亡消費税」とはいったいどのような提案なのでしょうか?

遺産にかかる税金「死亡消費税」

死亡消費税とは「亡くなった時点で残った遺産に一定の税率をかけ、消費税として徴収する」という、東京大学の伊藤元重教授が2016年の社会保障制度改革国民会議において提唱したものです。

これは定年後の60歳から亡くなるまでの85歳までの間、使わずに貯蓄していた個人のお金、つまり遺産から、そのお金を消費していれば払っていたと考えられる金額を「消費税」として払ってもらうという考えに基づいております。

死亡消費税は「未来への投資」のため

今日、大切な国の財源の大部分は、現在の消費とも言うべき高齢者の医療費などを含む「社会保障」に充てられています。

このお金を少しでも未来への投資とも言える「雇用の支援」や「子育て支援」、「教育」といった分野に回すため、打ち出されたのが「死亡消費税」です。

亡くなった方が対象

「死亡消費税」という名前の通り、亡くなった方が対象です。

提唱された背景とは?

この「死亡消費税」が提唱された背景の一つには、社会保障に莫大な費用がかかっている事実があります。

毎年社会保障にかかる費用は110兆円と言われており、税金や国の借金により何とか捻出されている状況です。
今後も高齢化に伴い、その費用は毎年1兆円増加していく見込みで、この状況を少しでも改善すべく、現在様々な政策や制度が検討されています。

もう一つの背景は、年金所得から簡単に天引きを増やすことが難しい、という事実です。
高齢者の不満が募るため、年金の支給金額を引き下げたり天引きをしたりすることが容易でないことから、高齢者の保有する資産に税金をかけるという「死亡消費税」が提案されたのです。

死亡消費税と相続税の違いって?

葬儀

人が亡くなった時点でかかる税金という意味では、「死亡消費税」は「相続税」と類似していると言えます。

そこで、死亡消費税と相続税の違いを検証しました。

ここが違う!「死亡消費税」と「相続税」

「死亡消費税」は亡くなった方の遺産額にかかわらず一定の税率が徴収されるというものです。
現在の日本の財政を改善すべく提案されたものですが、まだ施行されておりません。

対して「相続税」は、遺産が一定金額以上ある場合に適用され、遺産の額によって税率が異なり、遺産の額や状況によっては控除が適用されることもあります。
また相続税は既に施行されており、改正もされております。

平成27年に改正された「相続税」とは?

相続税とは既にご紹介しました通り、遺産が一定金額以上ある場合に適用される税制度です。
該当する場合、被相続人が亡くなってから10か月以内に相続人は申告しなければなりません。

ここからは平成27年に改正された、最新の相続税についてご紹介します。

相続税がかからない場合も!相続税の控除とは?

相続した遺産が課税対象になるかどうかは、課税遺産総額が控除額を超えるかどうかで決まります。
因みに課税遺産総額は遺産額+被相続人が亡くなる3年前までの贈与財産の金額―(葬式費用+借金等の債務)で割り出すことができます。

平成27年の改正により相続税の控除額は引き下げられ、3000万+600万×法定相続人数で割り出されます。

法定相続人数 基礎控除額
1人 3600万円
2人 4200万円
3人 4800万円
4人 5400万円
5人 6000万円

例えば法定相続人が1人で課税遺産総額が3500万円だったとすると相続税はかかりません。
課税遺産の額がこの控除額を超える場合は、相続税を納めなければなりません。

とっても簡単!相続税の計算方法とは?

平成27年に改正された内容に基づく相続税の計算方法は以下の通りです。

まずそれぞれの相続税を求めます。

相続人それぞれの相続税=【(相続額―基礎控除額)×法定相続分の割合×税率―控除額】

税率と控除額につきましては以下の表をご参照ください。

課税標準額 税率 控除金額
3億円超 50% 4700万円
3億円以下 40% 1700万円
1億円以下 30% 700万円
5000万円以下 20% 200万円
3000万円以下 15% 50万円
1000万円以下 10% なし

ここで実際に税金を計算してみましょう。

夫が亡くなり相続人は妻、長女、次女、遺産額が1億円の場合です。
法定相続分の通り遺産を分配し、妻は5000万円、長女、次女は2500万円とします。
相続人は3人ですので、基礎控除額は4800万円です。

1億円―4800万円=5200万円

この5200万円に基づき、それぞれの相続税の総額を求めますと以下の通りです。

妻:5200万円×1/2×0.15-50万=340万円

長女:5200万円×1/2×1/2×0.15-50万=145万円

次女:5200万円×1/2×1/2×0.15-50万=145万円

法定相続分に基づき算出したそれぞれの相続税の合計は以下の通りです。

340万円+145万円+145万円=630万円

この額に法定相続分の割合をかけて最終的な相続税を求めることができます。

妻:630万円×1/2=315万円

長女:630万円×1/2×1/2=157.5万円

次女:630万円×1/2×1/2=157.5万円

ただし、配偶者控除を活用すると妻の相続税である315万円を払わなくて済みますので、実質支払うのは長女と次女の相続税の合計315万円となります。

配偶者の生活を守るための「配偶者控除」

配偶者控除

配偶者が亡くなった場合、夫婦の財産として、また残された配偶者の今後の生活の保障も含めた「配偶者控除」というものがあります。

これは相続税の納付期限である10か月以内に分割された遺産に適用される控除で、遺産の中で配偶者が相続する額が1億6000万円もしくは配偶者の法定相続分のどちらか高い方が非課税になります。

例えば法定相続分が1億円だったとすると、遺産分割協議で法定相続分以外に相続する分があるとしても1億6000万円までは非課税です。

また法定相続分が10億円であれば、10億円までが非課税です。

ただし、配偶者控除を受けられるので、とにかく配偶者が沢山相続すれば良いという訳ではありません。

というのは、その配偶者が亡くなった時にその遺産を沢山相続した方にその分の相続税がかかってしまうからです。

そこで、次に発生すると考えられる相続を考慮し、慎重に分配を決める必要があります。

相続税の納付期限の10か月を過ぎた後で相続した分については適用されないため、遺産分割協議が長引いたりする場合は事前に税務署長宛てにその旨を届け出る必要があります。
また内縁関係や愛人にはこの控除は適用されません。

死亡消費税のこれからとは?

死亡消費税は導入が決まっている訳ではなく、導入されるとしてもまだまだ調整しなければならない点が沢山あると言われております。

そのうちの一つが、亡くなった時にどこまでの財産を課税対象とするかという点です。不動産から現金まで全て含めるのか、それとも限定した遺産のみを対象とするのかという違いが考えられます。

他にも、どのように当局が管理、消費税として請求するのか、消費税として取られたくないと生前贈与がなされた場合、どのように対応していくかといった問題もあります。

「死亡消費税」はすぐに導入される訳ではありませんが、「社会保障」にかかる費用を抑えるという大きな課題を前に何らかの対策を取ることを迫られております。

そのため、「死亡消費税」のようなこれまでにない提案が施行される日はそう遠くないのではないか、という考えを持つ専門家は少なくありません。

そのような制度が導入されるとき、私達の生活にも少なからず影響が出ることでしょう。
新しい制度は、まだ施行されていないからこそそのメリットや問題点を理解しておくことが重要なのです。