相続税の税率は、相続する財産の金額が大きくなるほど高くなります。
相続額が1,000万円以下の場合は10%ですが、これが1億円を超えると40%、6億円を超えると55%にもなります(実際は控除額があるので料率はもう少し低くなります)。
高額になることが多い相続税ですが、もし相続の申告・納付が遅れたり、申告そのものをしなかった場合、どのような問題が起きるのでしょうか。
相続税の申告・納付が遅れると起こる4つの問題
相続税は、その申告・納付の時期が遅れると様々な問題が発生します。
1. 納付が遅れた場合は延滞税がかかる
相続税の申告を期限内に済ませていても、納付が遅れた場合は、その日数に見合った延滞税がかかります。また、申告自体が遅れれば、もちろんその遅れた分の延滞税もかかります。
そして、期限後の修正申告※で相続税が増えた場合は、その分に対する延滞税もかかるので注意しましょう。
※確定申告の時に税額を実際より少なく申告していた場合に行う、内容を修正する申告のこと
2. 申告が遅れた場合は無申告加算税がかかる
無申告加算税とは、相続の申告書を提出する必要があるにもかかわらず行わなかった場合、罰則として課せられる税金のことです。無申告加算税の税率は、自主的に申告した場合と税務署から指摘を受けてから申告した場合とで違いがあります。
- 申告期限が過ぎてから自主的に申告した場合は、無申告加算税の税率は5%
- 申告期限が過ぎて税務調査などで指摘されたのちに申告した場合は、相続税額50万円以下なら15%、50万円を超えると20%
このように無申告加算税の税率は、指摘前と指摘後で大きく異なります。申告書を提出し忘れていた場合は、なるべく早く提出しましょう。
3. 配偶者の税額軽減制度を受けることができない
申告期限までに相続税の申告を行わないと、被相続人の配偶者に対する特例である「税額軽減」が適用されず税額が高くなります。
「税額軽減制度」とは
亡くなった人の配偶者は、法定相続分または1億6千万円以下の相続に対しては税金がかかりません。これが税額軽減制度です。
たとえば、配偶者の法定相続分が2億円、その他の相続が1億円あった場合は、2億円に関しては税金がかかりません。また、法定相続分が1億円、そのほかの相続が2億円あった場合は、1億6千万円分に税金がかからないのです。
4. 小規模宅地等の特例制度を受けることができない
申告期限までに相続税の申告を行わないと、小規模宅地等にかかる相続税の課税価格を計算する際の特例、つまり「小規模宅地等の特例」が適用されず税額が高くなります。
「小規模宅地等の特例」とは
亡くなった人や家族が住んでいた家、および事業用に利用されていた不動産を相続する場合、その不動産の評価額が50~80%減額される制度です。
相続税の申告・納付期限は相続発生から10カ月
相続税は申告税ですから、相続発生から10カ月以内に申告を済ませて納付しなければなりません。
親族が亡くなったあとは、いろいろな手続きや手配に時間をとられてしまい、10ヶ月があっという間に感じる方も多いはずです。遺された家族や親族が困らないようにするためには、前もって遺言書や財産目録を作っておく必要があります。
また、法定相続とは違う配分で遺産を分配したい場合は、その詳細をきちんと書いておきましょう。
特別に申告期限の延長が認められることも
相続税の申告期限は原則、相続発生から10ヶ月以内ですが、特例的に申告期限の延長が認められることもあります。それが、遺産を遺す人が亡くなってから9カ月たった後に、相続人や遺産に変更があった場合です。この場合は、申告期限が最大2か月間延長されます。
相続人や遺贈を受ける人数に変更がなされるケースとして、
- 相続や遺贈を放棄する人がいた
- 遺贈について記された遺言書が見つかった
- 新たに子どもを認知した
- 胎児が出生した
など、いろいろな場合があります。
また、遺産に増減が出る事例としては、死亡後に退職金が出て遺産が増えた、などこちらも様々なケースがあります。
相続税を申告しなかったらどうなるのか
相続税を申告しなかった場合、その理由は大きく3つに分類できるでしょう。
- 故意に申告しなかった
- 申告できなかった
- 申告義務を知らなかった
1.の「故意に申告しない」というケースは、「相続税を払いたくないから」という理由もあるでしょうが、「遺産の分け方で揉めているから」という理由が一般的です。揉めている間に結論が出ないまま10カ月間が経過してしまい、結果的に申告期限を過ぎてしまうというケースになります。
また、2.の「申告できなかった」というケースでは、相続人が認知症やそのほかの病気で入院しており、申告できなかったという場合があります。現在の高齢化社会では、相続人である妻や子どももまた高齢である場合が多くなっています。
3.のケースで最も多いのが、故人と同居していた配偶者などが故人名義の住宅にそのまま住み続ける、といった場合です。このようなケースでも申告義務があると知らず、そのまま期限を過ぎてしまうことがあるため注意しなければなりません。
相続税無申告には時効があるが成立は難しい
相続税無申告には時効があります。故意に申告しなかった場合は7年、申告できなかった・申告義務を知らなかった場合は5年です。時効が成立すると申告義務も納税義務も免除されます。
ただ、実際に時効が成立するケースはほとんどありません。その理由を以下で詳しく解説します。
税務署は相続があったことを把握している
人が亡くなった場合は、必ず役所に死亡届を提出します(死亡届を出さなければ、火葬許可が出ないので葬儀ができません)。その情報は、当該地域の役所から税務署に通知され、税務署は管轄地域の住民が亡くなったことを把握できるようになっています。
相続税の申告先は、相続人の住所地ではなく、故人の死亡時の住所地を管轄する税務署です。つまり、故人の死亡届の提出先と、相続税申告先はつながっているのです。税務署のコンピューターには、「△カ月前に○○町の××さんが亡くなったのに、相続税の申告がまだだ」とデータ化されています。
税務署は、亡くなった人の生前の納税状況や資産状況も把握しているので、納税額を見れば「何かしらの遺産がある」という見込みもつきます。そういった情報をもとにして、税務署は様々な調査をします。この調査の結果によっては、相続人は一般的に「お尋ね」という形で呼び出しを受け、そこで相続税無申告の指摘を受けるのです。
このことからも分かるように、相続税の時効が成立するのは不可能に近いといえるでしょう。
相続財産の分割協議が間に合わないときはどうするの?
相続税の申告期限は、相続財産がまだ分割されていないからといって伸びることはなく、相続が発生してから10ヶ月以内に申告しなければなりません。
しかし、期間内に財産の分割協議が成立しない場合もあります。
その時は、相続をしたものとして相続税を算出し、申告と納税をすることになりますが、前述した「配偶者の税額軽減の特例」と「小規模宅地等の特例」が適用できない申告となってしまうため注意しましょう。
特例の適用を受けるためには
遺産の分割が行われていない時に申告をするが、特例も受けたいという場合、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出するという方法があります。
これがあれば、申告期限から3年以内に分割された場合に特例が受けられるようになるので、遺産分割が確定してから4ヶ月以内に「更正の請求」を忘れずに行いましょう。
なお、相続に関する訴えがあるなどのやむを得ない事情がある場合は、申告期限から3年が過ぎても特例を受けられることもあります。
申告期限から3年が経った日の翌日から2ヶ月後までに「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出しましょう。これが承認され、判定の確定日などの翌日から4ヶ月以内に遺産が分割されれば、特例を受けられる可能性があります。
相続税の申告は期限内に
親族が亡くなった直後は、精神的に弱っている中でいろいろな手続に追われることも多いでしょう。しかし、相続税の申告・納税は、「知らなかった」でそのまま済まされるものではありません。
日頃から少しだけ意識をして、その時が来たらできるだけ期限内に申告・納税することをおすすめします。