ドラマやテレビなどでもよく耳にする「遺言書」は、自筆で作成が可能です。

しかし遺言書にもルールがあり、そのルールを無視して遺言書を作ってしまうと法的効力がなくなってしまい、遺産相続時のトラブルに発展してしまいます。

遺言書はルールに則らないと法的効力を失ってしまう

祖父母や親が亡くなったとき、特に争いに発展しやすいのが遺産などの相続に関することです。
それを回避するために遺言書を残しておくのは非常に有効な手段ですが、ルールに則って遺言書を書かなければ、法的効力を失ってしまいます。

押さえておきたい基本のルール

まずは遺言書を自筆する際の基本的なルールをご紹介します。

全文を自筆にする

自筆で作られた遺言書のことを「自筆証書遺言」といいますが、この場合、遺言書の文章がすべて自筆で書かれていなければ遺言書として正しく機能しません。
「字が汚いから」「自筆は面倒くさいから」という理由でワープロなどを使って遺言書を作成した場合、遺言書として一切認められないので、必ず自筆で作成しましょう。

また、人によっては病床にあることもあり、どうしても自力では自筆証書遺言が作成できないという場合もあるでしょう。
そのようなとき、ついつい親族に代筆で遺言を作成してもらおうと考えてしまいがちですが、これもNGです。

このような場合には、公証人に後述する内容に基づいて遺言書を作成してもらう「公正証書遺言」を利用する必要があります。

日付は「年月日」まで正しく記載する

自筆証書遺言を作成する場合、遺言を書いたその日、つまり「年月日」を必ず、正確に記入する必要があります。
これは遺言を書いた当時に本人に遺言能力があったのかを確認したり、遺言書が複数出てきてしまった場合の判断材料とするためです。

必ず署名押印をする

当然遺言書には、本人の署名押印が欠かせません。氏名は本人が特定できるものであれば通称や姓だけでも有効ですが、戸籍通りのフルネームを書くのが理想的です。

また押印も認め印や拇印でも構いませんが、最も本人を証明しやすい実印が理想的です。

用紙、筆記用具、書式は自由

自筆証書遺言を作成するときに使う用紙や筆記用具には、特に決まりはありません。
ただし、場合によっては長い年月封に閉じられたままになる可能性もあるため、用紙は耐久性のある事務用の紙や和紙を、筆記用具は改ざんを防ぐためにもボールペンを利用するようにしましょう。

文書を訂正する場合の手順

自筆証書遺言の文章を訂正するときは、正しい手順を踏まなければその遺言書自体が無効になってしまうことがあります。

正しい手順は以下の通りです。

  1. 文章に加入する場合は加入の記号を、訂正する場合は訂正箇所を原文が読める程度に二重線で消す。
  2. 縦書きなら訂正箇所の脇に、横書きなら上部に正しい文字を記入する。
  3. 訂正箇所に署名押印に用いたものと同じ印鑑で押印する。
  4. 訂正箇所の欄外に状態に応じて「本行〇字削除」「本行〇字加入」と記入する。もしくは、遺言書の末尾に「〇行目の〇〇を削除し、〇〇を訂正」といったように記入する。
  5. 一つ一つの訂正箇所に署名する。

このように自筆証書遺言を訂正するのは、意外と手間がかかってしまいます。一箇所、二箇所の訂正ならよいですが、訂正箇所が多い場合は書き直したほうが楽かもしれませんね。

変造などを防ぐため、封筒に入れて封印する

遺言書が完成したら、変造などを防ぐためにも封筒に入れ、封じ目に押印をして保管しましょう。またしっかりと「遺言書」と表書きに記載し、発見者がひと目で遺言書だとわかるようにしておくことも大切です。

遺言書を自筆する際の具体的な注意点

遺言を書く老人

さらに細かく、遺言書を自筆する際の注意点をみていきましょう。

財産は正確に特定できるように書く

遺言書に記載する財産は、正確に特定できるように書かなければ無用なトラブルを引き起こす原因になってしまいます。

不動産であれば登記簿の記載通りに遺言書にも記載、株券であれば会社名と株数を記載、預金口座であれば銀行名および支店名、口座の種類、口座番号を記載するといったように、必ず財産を正確に特定できるように書いておきましょう。

「誰」に「何」を与えるかはっきりとさせる

遺言書には「誰」に「何」を与えるかはっきりと明記することも重要です。

例えば「おおよその財産は息子たちに相続させる」と書いてしまうと、「おおよその財産とはどこからどこまでの財産のことなのか?」「息子たちの中での分配の割合は?」といった疑問が出てトラブルになってしまうこともあります。

「相続」「遺贈」のどちらかの言葉を使う

遺言書では「譲る」「与える」といった言葉が使われやすいですが、正確には「相続」「遺贈」のどちらかの言葉を使う必要があります。
相続は相続人に対してのみ使う言葉ですが、遺贈というのは相続人ではない人にも使える言葉です。

つまり、一般的には遺産を受け取れるのは相続人だけですが、「遺贈」という言葉を使うことで相続人以外にも遺産を分け与えることができるのです。

ただし、相続と遺贈では税金の割合や手続きなどが異なってくるため、間違いのないように使う必要があります。

取り分に偏りがある場合は、納得できる理由を書く

被相続者が「長男よりも三男が一番老後の面倒をみてくれたから、遺産を多めに相続させてやりたい」などと考えることも多いでしょう。このように遺産の取り分に大きく偏りがある場合には、その理由をしっかりと明記して、誰もが納得できる状態にする必要があります。

納得できる理由も書かずに遺産の取り分に偏りを出してしまうと、大きなトラブルやその後の親族の不仲に繋がりかねません。

遺留分を配慮する

一定の範囲の相続人には、最低でもこれだけの財産の取り分は保証するという「遺留分」の制度が設けられています。
そのため、いくら遺言に「〇〇には相続させません。」と書いたとしても、該当する人が一定の範囲の相続人であれば遺留分の制度によって最低限の財産は相続できるようになります。

この遺留分を配慮せず、自分の思うままに遺産を相続人に分配するのもトラブルのもとになるため、十分気をつけましょう。

遺言できる内容は決められている

遺言書を書くシニア

遺言書というと「被相続人(故人)の遺産相続などに関する希望を、相続人などに伝えるもの」というイメージがあります。
確かにこれは間違いではないのですが、遺言書に書けばどんな希望も叶うというわけではありません。

遺言書に書くことで法的効力を得るものは次の3種類となります。

相続に関すること

相続分の指定または指定の委託、遺産分割方法の指定または指定の委託、遺産分割の一定期間の禁止など

財産処分に関すること

遺贈、寄付行為、財団法人の設立など

身分に関すること・その他

未成年後見人の指定および未成年後見監督人の指定、遺言による認知など

こういった事柄に関する希望を、ルールに則って正しく遺言書にしたためることで、その希望は法的効力を有し、遺産相続時などに有効となるのです。

ただし、これはあくまで「相続」「財産処分」「身分」に関する内容の遺言のみ法的効力を得るという話であり、それ以外のことを遺言書に書いてはいけないというわけではありません。

例えば遺言書に「お葬式は身内だけでしてほしい」と書けば、法的効力は生まれませんが、親族がその気持ちをくみ取って希望通りにしてくれることも多いでしょう。
遺言書を自筆する場合は費用も手間もかからないのですが、一方でたくさんのルールや注意する点があり、誤った書き方をしてしまえばせっかく書いた遺言書が効力を発揮しなくなってしまいます。

もし遺言書を自筆する自信がないのであれば、費用はかかりますが、先述した内容をもとに公証人に作成してもらう「公正証書遺言」を利用することも視野に入れた方がよいでしょう。