近年は、「相続人に一切の遺産を渡したくない、それなら寄付をしたい!」と思われる方が増えています。
自分が卒業した母校や、ボランティア団体に対して寄付をしている人も意外と多いようです。
古くからの日本の文化では家系をなによりも重んじ、築き上げてきた財産はそのまま直系親族へ引き継ぐのが一般的でした。
そのため親族以外に対して寄付をすることは、日本においてはまだまだ浸透していません。
ただ、「家系を重んじる」という考え方が薄れつつある現在、日本においても遺産を寄付したいと考える人がかなり増えてきているのです。
そこで今回は、相続人以外に対して遺産を寄付する際の注意点について解説していきます。
遺産の寄付は「遺贈」「死因贈与」の2種類
遺産の寄付には、「遺贈」「死因贈与」の2種類が存在し、遺贈はさらに「包括遺贈」「特定遺贈」の2つに分けることができます。
遺贈は寄付する「財産」か「財産の割合」を定めて譲渡する
遺贈は、遺言書に遺贈の意思を記載することで特定の人物や施設などに遺産を寄付する方法です。遺贈では、財産を譲渡する人(被相続人)を「遺贈者」、受け取る人を「受遺者」と言います。
遺贈者の一方的な希望であるため、受遺者は寄付を受けない選択をすることもできます。
包括遺贈を拒否する場合は遺贈者の死亡を知った時点から3ヶ月以内に申し出なければなりませんが、特定遺贈はいつでも拒否の申し出が可能です。
包括遺贈
「全財産」「全財産のうちの◯割」など、被相続人が定めた割合の財産を寄付する方法です。定めているものは「割合」であるため、被相続人の財産の内容に変化があっても一定の割合を寄付することができます。また、プラスの財産、マイナスの財産の両方を受け取る可能性があります。
特定遺贈
「◯◯銀行の預金」「◯◯の土地」など、寄付する財産の内容を特定して寄付する方法です。特定の財産について寄付するため、マイナスの財産を受け取ることはありませんが、財産の内容に変化があった場合も、定めた範囲の財産しか受け取ることができません。
死因贈与は生前に結ぶ「契約」
死因贈与は、生前に交わす契約のことです。死因贈与の場合は、財産を譲渡する人を「贈与者」、受け取る人を「受贈者」と言います。
「契約」という性質上、受贈者は贈与者の同意なしに寄付を拒否することができません。また、遺贈が遺言書によって成立するものであるのに対し、死因贈与は遺言書を必要とせず、口約束であっても成立し得る点に特徴があります。
負担付死因贈与
死因贈与には、贈与者から受贈者に対して一定の条件を満たした時にのみ寄付する負担付死因贈与というものがあります。条件には、「自分が死ぬまで面倒を見ること」といった内容のものが多いです。
遺贈と死因贈与はどちらを選択するべきか
遺産を寄付する方法には遺贈と死因贈与がありますが、どちらを選択したほうが良いのでしょうか。
それぞれのメリット・デメリットから探っていきましょう。
遺贈のメリット
受遺者に拒否権がある
上述の通り、遺贈の場合は受遺者に拒否する権利があります。マイナスの財産が多い場合や相続税を払いたくない場合などに拒否するケースが多いです。
遺贈者は自分が死ぬまで内容を知られずに済む
遺言書という形式である関係上、本人が話すか誰かに読まれない限り、内容を知られずに済みます。自筆証書遺言、秘密証書遺言なら自分以外に内容を知られることはなく、公正証書遺言の場合でも証人、公証人以外に知られることはありません。
遺贈のデメリット
形式が遺言書のため、書式に誤りなどがあると無効になってしまう
自筆証書遺言の場合は特に、書式に誤りがある、記載しなければいけない事項が抜けていたなどの理由から、遺言書そのものが効力を失ってしまう場合があります。遺贈に関する遺言も無効となるため、寄付をすることができません。
包括遺贈の場合はマイナスの財産についても寄付することになる
拒否するという選択をすることもできますが、受遺者がマイナスの財産も一緒に受け取る可能性があります。
特定遺贈の場合は財産の内容に変化があった場合に対応ができない
特定遺贈する予定だった不動産などを売却してしまった場合、寄付する対象物が手元にないため、受遺者に対して何も遺すことができなくなってしまいます。
死因贈与のメリット
契約が成立さえすれば確実に寄付することができる
遺贈とは異なり、両者の合意のもとで交わされる契約のため、確実に寄付することができます。
形式が定まっていないため成立の確実性が高い
形式が定まっていないため、口約束であっても成立し得ます。ただし、両人の意思を明確にしておく、相続人とのトラブルを避けるといった理由から、書面での契約が望ましいでしょう。
死因贈与のデメリット
不動産の贈与の場合は税率が高くなる
遺贈を選択した場合と比べて税率が高くなってしまいます。遺贈の場合、不動産取得税は「特定遺贈かつ受遺者が相続人以外」の場合のみ税金がかかりますが、死因贈与では通常の贈与と同様に税金がかかります。
また登録免許税は、遺贈の場合、相続人0.4%、相続人以外2%ですが、死因贈与の場合は一律2%となっています。
負担付死因贈与の場合は撤回できなくなるケースもある
死因贈与は通常、贈与者が死亡する前であれば贈与者の意思のみで内容を変更、撤回することができます。しかし負担付死因贈与の場合、受贈者がすでに定められた負担を負っている場合には正当な理由がない限り、変更、撤回することはできません。
内容を隠しておきたいなら遺贈・確実に寄付したいなら死因贈与
遺贈と死因贈与は、必ずしもどちらかが良いというものではありません。状況やご自身の気持ち、遺産を贈る相手によっても変わってきます。
より良い選択をするためにも、今回ご紹介したそれぞれの特徴やメリット・デメリットをよく理解しましょう。
不安な方は、弁護士などの専門家に相談してみるのも良いかもしれませんよ。