成年後見制度とは、認知症などの病気や知的障害、精神障害などによって、様々な事柄に対する判断能力が不十分である方を支援するために、第三者が代わりとなって法的な手続きを行えるように作られた制度です。
日本は高齢者が増えており、これからも成年後見制度がないと困る場面がたくさんあるでしょう。
トラブルの多い相続に関しても、成年後見人がいないと遺産分割協議を進めることはできません。
ここでは、成年後見制度の内容と相続との関係についてご説明します。
成年後見制度の内容
成年後見制度とは何か
近年、日本では高齢化が進んでおり、高齢者がトラブルに巻き込まれることが問題視されています。成年後見制度は、自分で正常な判断や意思決定ができなくなってしまった方のために作られた制度です。
この制度を使えば、認知症などの病気や、精神障害、知的障害など様々な理由で判断能力が不十分な方の代わりに、第三者が法的手続きを行えるようになります。
成年後見制度を利用する方法
成年後見制度を利用するには、成年後見人を選任させなければなりません。
成年後見人を選任するには、家庭裁判所での手続きが必要になります。
被成年後見人の住んでいる地域を管轄する家庭裁判所に必要書類を集め、提出しなければなりません。
申し立ての際、必要な書類が多く、裁判所に足を運ぶ必要もあるため、専門家に依頼する人も多いです。
成年後見制度の手続きの流れ
まず、家庭裁判所へ申し立てをします。
それから、家庭裁判所の調査員によって、実態の調査をした後、精神鑑定に進みます。
精神鑑定が行われるのは約1割で、稀なケースです。
そして審判に至ります。
審判後、裁判所より、告知と通知があります。
そして、東京法務局にその旨が登記され、法定後見開始となります。
成年後見制度の申し立てから審判までの期間は事案によって様々ですが、申し立ての約8割が2か月以内で審判に至っています。
制度が開始された時と比べると、審理期間は短くなりました。
成年後見制度がないとどうなるか
正常な判断ができないのをいいことに、その人にとって不利益を被る取り引きを迫られる、というケースが考えられます。
大切な財産を守るためには、成年後見人を選任し、第三者によって支援を受ける必要があります。
例えば、不動産の不当な売買や、悪質な訪問販売による詐欺などが考えられますが、こういったトラブルも成年後見制度を利用すれば回避できる場合があります。
成年後見制度が役に立つ具体的場面
成年後見制度を利用する具体的なきっかけとしては、預貯金等の管理があげられます。
また、施設入所などによる介護保険の契約にも成年後見制度が必要な場合があります。
そして、不動産の処分や相続手続きなどの法的手続きの際にも、成年後見制度が役に立ちます。
適正な財産管理や生活の補助など、成年後見制度を利用することでスムーズになる事案がたくさんあります。
成年後見人の仕事について
成年後見人に選任された人は、様々な仕事をすることになります。
まず最初に資産状況の把握から始まります。
それをふまえて、今後の生活プランを検討し、就任後1か月以内に、財産目録と年間収支の見込みを、家庭裁判所に提出する必要があります。
その他にも、後見人の資格を証明するための「登記事項証明書」を取得し、役所や銀行など関係のある機関には、後見人として就任したという届け出をしなくてはなりません。
最初の1か月は特にやらなければならないことが多いです。
普段は、預貯金や現金などの資産管理が主な仕事となりますが、本人の生活状況の確認も不可欠になります。
それら日常の仕事をしながら、業務内容を家庭裁判所に報告します。
不動産の売却や遺産分割協議など、なにか特別なことがあるときも成年後見人が仕事をすることとなります。内容が難しい場合は、専門家に依頼すると良いでしょう。
本人が亡くなった時には、2か月以内に遺産を確定する必要があり、それを相続人に報告しなければなりません。
また、同時に家庭裁判所への報告も必要です。
相続人へ財産の引き渡しが終了すると、成年後見等終了の登記をして、成年後見人の仕事が終了します。
成年後見制度の利用者データ
平成24年の年末時点で、成年後見制度の利用者は約16万6000人にのぼるというデータが公表されています。
そして、年々利用者が増えており、毎年1万人以上増加しています。
日本の高齢化が進む社会において、今後も利用者の増加が予想されます。
また、80歳以上の利用者が最も多くの割合を占めており、男女比は男性が約4割、女性が約6割となっています。
後見人になっている人のデータを見ると、約4割が親族で、約6割が弁護士や司法書士などの専門家となっています。
専門家が成年後見人になることも可能となっており、手続きをスムーズに進められるというメリットから、専門家にお願いする方が多いようです。
成年後見制度のメリットとデメリット
成年後見制度のメリットは、病気や障害によって判断能力が低下した方に対して、第三者が財産管理等をできるようになることです。
また、本人が詐欺にあった際も、成年後見人がもつ取消権によって契約を取り消すことができます。
さらに、成年後見制度は法務局で登記されているため、公的に地位を証明することができます。
成年後見制度のデメリットとしては、会社の取締役や弁護士、医師などといった一部の職業に就けなくなります。
また、手続きに時間を要するため、迅速性には欠けています。
ですから、もしもの時を考えるならば、早めに制度の利用を考えた方が良いでしょう。
成年後見制度と遺産相続について
成年後見人の選任と遺産相続の関係
成年後見人を選任する際、同じ相続人という立場の方は、成年後見人になることはできません。
というのも、「利益相反」が発生するためです。
成年後見人と被成年後見人が、同じ相続人という立場だった時、どちらかが多く財産を得ると、もう一方の得る財産が少なくなります。
片方が得をし、もう片方が損をする関係を利益相反といいます。
法律では、利益相反が禁止されているため、この関係が成り立つ人が成年後見人になることができないのです。
相続の際に関係ない立場の人が成年後見人とならなければなりません。
遺産分割協議と成年後見人について
遺産相続の際に、遺言書があればその通りに遺産の分与が行われます。
しかし、遺言書がなければ遺産分割協議によって遺産をどうするか決めなければなりません。
遺産分割協議には、相続人全員が参加する必要があります。
相続人に判断能力が不十分な方がいる場合、その方を無視した遺産分割協議は無効となります。
遺産分割協議をスムーズに進めるためには、判断能力が不十分な方の代わりとなる成年後見人が不可欠です。
被成年後見人の代わりとなって、遺産分割協議に参加し、話し合いを進めることによって、遺産分割協議を円滑に進めることができます。
成年後見制度を利用することは、相続のトラブルを未然に防ぐことにも繋がります。日本の社会は高齢化が進んでいるため、今後より必要な制度になっていくでしょう。