遺産分割協議が相続税申告の期限までに終わりそうにない場合も、申告はきちんと行わなければなりません。法定相続分などで相続人それぞれの取り分を決め、それによって申告を行います。

申告方法は以下の3ステップです。

ステップ1. そもそも申告が必要か確認する

相続税の申告は不要な場合も意外と多い!

遺産分割協議が期限までに終わりそうにない場合、まずはそもそも相続税などの申告が必要なのかを確認しておきましょう。
相続税の申告をしなければならないのは、遺産の総額が相続税の基礎控除額を超えている場合だけです。このことを知らずに、そもそも申告が必要ではないのに、申告の期限に悩んでいるケースも多くあります。

また、申告が必要だと考えてすでに計算している方も要確認です。
相続税の申告に関する法令は頻繁に変わるため、以前の法令の計算式で計算してしまっていて、今の法令では申告の必要がなくなっているのに、申告をしなくてはならないと勘違いしているケースもあるのです。

下記の計算式は、平成29年4月1日現在の法令等によるものです。一度、確認してみましょう。

申告が必要か確認するための簡単な計算方法

申告が必要かを確認するには、まずは遺産の総額を計算します。

遺産の総額=(本来の相続財産+みなし財産+相続開始前3年以内の贈与財産)-(非課税財産+債務控除)

上記の計算式で遺産の総額は計算できます。

計算式にある用語を確認しましょう。
「本来の相続財産」は、不動産や預金のこと。
「みなし財産」とは、死亡保険金といった保険金のこと。
「非課税財産」とは、お墓や仏壇、一定金額以下の死亡保険金などを指します。
「債務控除」は、お葬式の費用や借金などです。

遺産の総額が分かったら、相続税の基礎控除額を超えていないかを確認しましょう。基礎控除額は以下の計算式で求めることができます。

基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人数)

なお、法定相続人の数には相続を放棄した人も忘れずに数に入れてください。
遺産の総額が基礎控除額よりも多い場合は申告が必要です。
遺産の総額・基礎控除額の計算方法は法令等の改正によって頻繁に変わります。

以前の法令での計算方法で計算して損をしている場合もあるようですので、計算の際は、必ず法令を確認しましょう。

申告期限は延長できる場合もある

相続税の申告が必要だった場合、申告期限を延長できるケースがあります。

  • 相続人が失踪するなどして、相続人の人数が変化した
  • 遺留分の減殺請求があった
  • 遺言書が見つかった
  • 相続人となる胎児ができた
  • このような特殊な事情が出てきた場合は、税務署に申請をすることで最大2ヶ月の猶予がもらえます。

    しかし、このようなケースは稀で、大抵の場合は申告期限の延長はできません。

    ステップ2. 仮の相続税を申告する

    申告

    遺産分割が終わらなくとも申告は必ず必要!

    第一ステップの方法で計算をしてみて、やはり申告の必要がある場合、遺産分割協議が終わっていなくとも、必ず相続税の申告をしなくてはなりません。
    遺産分割協議が終わっていないからと言って申告を怠ると「延滞税」や「無申告加算税」といった罰金を取られてしまいますので、注意しましょう。

    遺産分割協議が終わっていない際の申告方法

    遺産分割協議が終わっていない場合の申告方法を確認しましょう。
    各相続人がそれぞれ「法定相続分」あるいは「包括遺贈」の割合に従って遺産を取得したことにし、それぞれの相続税の課税価格を計算して、相続税の申告をします。このようにすることで、罰金を支払う必要はなくなります。

    申請後に分割協議を続け、きちんとした分割額が決まったら、申告額の修正や更正を申請しましょう。

    遺産分割協議を終えないまま申告すると特例を受けられない?

    忘れてはいけないのが、遺産分割協議がきちんと決まっていない状態で申告をすると、デメリットも多いということ。最も大きいものは、いろいろな特例を利用できないという点です。

    本来相続税には、下記のような特例が用意されています。

    • 小規模宅地等の特例
    • 非上場株式の相続税の納税猶予制度
    • 農地等の相続税の納税猶予
    • 配偶者の税額軽減(配偶者控除)
    • 物納

    これらの特例は故人との関係や、相続するものによって受けられる制度です。これらの特例を活用することで、税金がかなり安くなるケースも多々あります。

    しかし、これらの特例制度には「遺産分割がきちんとされていない資産には適用できない」という決まりがあります。そのため、遺産分割協議が終わっていない段階で相続税の申告をしてしまうと、これらの特例がすべて適用できなくなってしまうのです。

    ただし、相続税の申告書に「申告期限3年以内の分割見込書き」を添付して提出しておけば、遺産分割が終わり次第、特例を受けられるようになります。

    ステップ3. 修正を申告する

    申告の修正

    修正申告とは

    手続きをきちんと行った上で遺産分割が完了したのならば、最後に「修正申告」と「更正請求」をします。

    修正申告とは、遺産分割協議後に得られた財産に対する税金がステップ2で仮申告したものよりも多かった場合に行います。
    この修正申告には期限はありませんが、「延滞税」や「過小申告加算税」がかかる場合があります。

    更正請求とは

    納付金額が少なかった場合の申告である修正申告に対して、更正請求とは多く納税した場合に使われます。
    つまり、ステップ2で仮申告したものよりも多く税金を納めていた場合に適用されるものになります。

    なお、更正の請求には申告期限から5年以内という決まりがあります。

    相続税は多めに支払っておこう!

    遺産分割協議が長引いた場合は、一度法定相続分で仮の申告を行い、分割協議がまとまってから「修正申告」や「更正請求」を行います。

    上記で確認したように、修正申告は延滞税を取られてしまうことがあります。
    法定相続分で申告を行う際は、必要な税よりも多めに納税をして申告を済ませると良いでしょう。
    そうすれば、遺産分割後に「修正申告」をする必要が低くなり、延滞税への対策ができます。

    このように、遺産分割協議が相続税の申告期限までに終わらなかった場合の対処は、

    1. そもそも申告が必要か確認する
    2. 仮の相続税を申告する
    3. 修正を申告する

    の3ステップで進めていきます。

    協議を終えないと利用できない特例もありますから、遺産分割協議はなるべく余裕を持って進めていきたいものですね。