多くの人が遅かれ早かれ直面する相続の問題。経済的な余裕のない方も増えてきてくる現代では、トラブルも多くなっているのが実情です。中でも特定の相続人に対して有利な相続と見なされる「特別受益」は問題視されることも多いでしょう。

相続において「特別受益」は取扱いが難しいものです。今回はその難しい理由を3つに分けて説明していきます。

特別受益が難しい理由その1~適用する範囲が曖昧

特別受益の難しさを考える時、「どこまでが特別受益の範囲なのか?」という問題があります。
ここが曖昧だと、ある相続人から見れば特別受益に感じられるけれども、実際には認定されなかったというケースも出てきます。

一般的に「特別受益」とされる項目は、「遺贈によるもの」「結婚または養子縁組のための贈与によるもの」「生計の資本として受けた贈与によるもの」の3つが存在しています。
この中で、遺言書の中での「遺贈」は特別受益になりますが、残り2つには絶対的な縛りがある訳ではなく、ケースごとに「特別受益」に当たるか判断されるのです。

このとき判断の基準となるのが、その受益が社会通念上で問題ないものであるかどうかです。そこには「金額」や「価値」が大きく関わってくることになります
つまり、あまりにも不合理に高い額のものになると、「特別受益」とみなされる可能性が高いと言えるでしょう。

特別受益が難しい理由その2~適用するタイミングに時効がない

次に2つ目の「特別受益」の扱いが難しい理由は、適用されるタイミングの判断です。
この難しさは、特別受益と推定されるものを既に受けている相続人からの視点になります。

「特別受益」を認めるのに、消滅時効は特にありません。つまり、どんなに以前に発生した利益であっても、相続時においてその他の相続人から「特別受益」だと認識された場合、裁判所に「特別受益」として認定される可能性があるということです。

しかし、「特別受益」の認識で忘れてはいけない点は、受益の価値評価そのものは被相続人の死亡タイミングで決まるということです。
とはいえ、受益タイプによっては死亡したタイミングにおける価値が著しく低い可能性もあります。その場合は当時の価値と死亡タイミングでの価値が勘案されることもあります。

特別受益が難しい理由その3~認定立証が困難

立証
さて、3つ目の特別受益が難しい理由として、立証することが難しいという問題があります。

というのも、「特別受益」を認めさせたいのであれば、立証責任はそれを望む相続人自身にあるからです。

日本では往々にしてこのような傾向が見られますが、相手の間違いは自分で証明しなさいという基本的な立場が「特別受益」においても採用されています。

つまり、立証ノウハウを持たない多くの相続人にとっては、「特別受益」を立証させることは困難だと言えるでしょう。

また、「特別受益」の中には流動性の極めて高い資産も多く存在します。例えば、現金として被相続人から贈与された場合は、その受け渡しの記録さえも残っていないことが多いでしょう。
一度でも預金口座などからの移動があれば別ですが、それさえも記録に残っていないと立証がさらに困難になっていきます。

「特別受益の持戻し」とはどういう制度?

ここまで述べて来た「特別受益」ですが、これが認定されると「持戻し」がなされます。つまり、認められた受益額を参考にして、相続額全体が再計算されることになります。

特別受益として認められると、その金額を現時点の相続財産に加算することになります。(例:現相続財産5,000万円 + 特別受益500万円 = 相続財産5,500万円)

遺言書などで遺産分割がなされない場合は、法定相続人の規定に基づいて分割協議を進めて相続分を確定します。(例:配偶者と子供2人の場合、配偶者が遺産の半分、子供が残り半分を分割で受取ります。配偶者-2,750万円、子供A-1,375万円、子供B-1,375万円)

上記の特別受益が子供Bのものであったとすれば、子供Bは1,375万円の相続分から500万円の「持戻し」が求められ、実質相続額は875万円になります。

ただし、この「特別受益の持戻し」には、被相続人による持戻しという免除制度があります。
つまり、特定の相続人に対する不公平さは残るけど、被相続人がそれで構わないと意思表示すると、特別受益の持戻しは免除されます。通常は遺言書で行われるのが普通ですが、特に方法は決められてはいません。

このように、特別受益は適用範囲が曖昧であったり、既に受け取っている利益にもかかる可能性があるなど判断が難しく、それを立証するのも困難なケースが多いです。相続人同士で冷静に話し合うことが大切でしょう。