ご存知のように、現在の日本では、経済の停滞もあって生活が困窮する家庭が急増しています。企業における非正規雇用の導入が進んだ2000年代以降になると、各家庭間の経済格差は一段と広がるようになりました。

日本には「生活保護」という制度があり、経済困窮者に対する救済措置を進めていますが、適用件数が年々急増している状況にあります。

中には、生活保護を利用している状況で、遺産相続が発生するケースもあるでしょう。

しかし、生活保護を受けていながら遺産相続もするというのは、どこか矛盾していると感じる方も多いのではないでしょうか。

今回は、生活保護を受けている人が、遺産を相続することになったらどうなるかについて詳しく検証していきます。

生活保護を受けていても遺産そのものは相続することが可能

どこの家庭でも、遅かれ早かれ相続が発生する可能性はあります。それは生活保護を受けている家庭であっても同じです。

結論から言うと、生活保護を受けていても遺産を相続することはできます。

ただし、遺産の金額が社会通念上に照らし合わせて大きいものになると、生活保護の利用に影響を及ぼすことになるでしょう。

また、現在の日本では、家族全員が同じエリアで暮らしているとは限らず、そのため家族同士の関係が疎遠で、本来であれば共有すべき情報が得られないことも少なくありません。

特に、生活保護受給世帯になりますと、家族間の繋がりは一層希薄な傾向にあります。自分に相続する遺産があるとは思い及ばないこともよくあることです。

遺産を受け取ることで生活保護が打ち切られる可能性はある

遺産を相続することによる生活保護への影響ですが、「最低限の生活を保障する」という生活保護本来の目的から考えれば避けることはできません。

受け取る遺産の金額次第では、自立した生活を進められると判断され、それまで受けていた生活保護が打ち切られる可能性が高いでしょう。

それどころか、場合によっては、それまで受給してきた生活保護費に対して相当額の返還を求められることもありますので、長期間支給を受け続けてきた世帯にとっては注意が必要です。

遺産相続がらみで生活保護を不正受給するケース

生活保護の不正受給
生活保護を受けている場合、遺産相続に関しては慎重に向き合う必要があります。しかし、中には悪意により生活保護を受給しようとする人がいます。

こうした悪質な受給者は、遺産が原因で支給停止になることも少なくありません。ここでは、そんな許されるべきでない不正受給のケースをご紹介します。

生活保護を受給する前から将来的な相続について知っていたケース

生活保護受給者の遺産に関する悪質なトラブルの中で最も多いのが、生活保護を受ける以前より、将来的にまとまった遺産相続が発生することを知っていたケースです。

この場合、遺産を受け取れば生活保護は打ち切られることを最初からわかって受給していることがほとんどです。家族ぐるみで行っていることも多く、罪悪感が薄いため後をたちません。

客観的に見て遺産相続に対して悪意があるわけですから、発覚すれば受給停止だけでなく、それまで受けていた支給分も遡って返還が求められる可能性があります。

親族に援助する余力があるのに援助せず生活保護を利用するケース

上述したケースよりも悪質なのが、最初から生活保護を受ける必要性がなかった場合です。

生活保護は、その家庭の経済状況で判断されるのが基本ですが、中には親や子ども、もしくは兄弟が生活援助できる余力を有していることもあります。

しかし、親族の中には敢えて援助しないことで、生活保護を不正受給させようとする人もいるのです。

このケースは、生活保護を受ける人が遺産を相続するケースとは異なりますが、生活保護がらみのトラブルとしては紹介しておきます。

生活保護がからんだ遺産相続は相続放棄がしにくい

生活保護がからんだ遺産相続は、なにかとトラブルになりやすいものです。そこで、トラブルを避けるために遺産相続を放棄したいと考える人もいるでしょう。

しかし、生活保護を受けている場合、基本的に相続遺産の放棄は進めにくい傾向にあります。

ここでは、その理由や背景についてご説明していきましょう。

相続できる財産が明らかに存在するのに生活保護を受ける矛盾

まず、生活保護を受けている場合、その時点で相続できる財産が存在するのなら、なぜそれを活用しないのかという疑問が生じます。

そもそも、相続財産を使えば生活保護を受けなくてもよくなるのに、それを放棄すること自体が大きな矛盾と言えるでしょう。相続放棄がしにくいのは、生活保護者にこのような抜け道を与えないという目的があります。

このことは決して生活保護者をいじめているのはなく、制度自体の公正さを図るために必要な措置といえるのです。

国には生活保護の受給者を減らしたいという本音がある

近年では生活保護の不正受給が、大きな社会問題となっています。
やはり国として、余計な予算を生活保護者に使いたくはないという本音は否定できないでしょう。そのためにも、生活保護を受けている人の相続放棄には、常に注意を払っています。

とはいえ、全く相続放棄ができないということではなく、合理的な理由によって生活保護を受けている当事者であれば、認められる余地は十分にあります。

遺産を相続しても生活保護が支給停止されないケースもある

生活保護で遺産相続
これまで、生活保護に対する遺産相続の影響をご説明してきましたが、実際には遺産を相続しても生活保護が支給停止されないケースもいくつか存在しています。

生活保護を受けている人の中には、受給段階でまったく資産を持っていないわけではない場合もあります。そのことを考慮すれば、遺産相続されたからといって支給停止にならないケースがあっても不思議ではありません。

これは相続した遺産のタイプや性質によって大きく対応が変わります。いったいどのような遺産であれば、生活保護は支給停止されにくいのでしょうか?

住宅を遺産相続するケース

このケースの代表的な遺産と言えば、まず住宅が挙げられます。住宅は、どのような経済状態の人であれ、生活の維持に最低限必要なものと判断されているため、遺産として住宅を受け取ったとしても、生活保護の停止は行われないことが多いです。

一戸建てに暮らしていても、現在は生活保護を受給する世帯は増えており、一定の収入が健康事情やエリアごとの雇用情勢によって著しく得られにくいケースは、数多く存在しています。

しかし、その住宅が条件の良い物件であるならば、売却などの処理による資金獲得を指導されることが多くなります。

相続した遺産であっても流動性の著しく低いケース

また、相続した遺産タイプによっては流動性が極めて低いこともあるでしょう。

例えば、草木の生い茂った土地や農地など、整地するだけでも費用と時間が掛かることがあります。このような土地ですと、立地によっては買い手のつかない場合もあり、遺産相続をしてもメリットがない場合もあるでしょう。

このような状態は住宅にも言えることで、古い住宅になると価値そのものがないと判断され、生活保護の支給停止に至らしめる事由に当たらないケースにもなり得るのです。

このように、生活保護を受けている場合、遺産相続には注意を払う必要があります。気づいたときには不正受給をしていたということがないように、わからないことは専門家へ相談するとよいでしょう。